第23話

サンドラはオデットを恐ろしい形相で睨みつけていたが、オデットが無視すると、不機嫌そうに一番遠くの椅子に腰をかけた。


「わたくしに聞きたいこととはなんだ?」

「単刀直入にお伺いします。秘宝とはなんですか? クナイシュの秘宝とは貴方のことではないのですか?」


 やはりそのことか、とオデットは声に出さずに、ただ嘆息した。


「自分の容姿が宝のように優れていると思うほど、わたくしは己惚れていない。だが、人が勝手に言っていることなど知らぬ」

「秘宝を使えば形勢は変わる、まだ間に合うと宰相閣下がそう言って陛下を説得していたのを、私は確かに聞きました」

「政治のことには直接関わっていないから、よくわからない。なぜ、大臣だったお前が知らぬことを、わたくしが知っていなければならないのだ」

「生きてる者で、知っている可能性があるのはオデット様一人ではないかと、誰もが推測するでしょう。敗残の者達も、秘宝を探しているとの噂です」

「それは、脅しか?」

「ただ御身を案じているのです」

「白々しい」


 ジベールは、オデットのどんな些細な感情の揺れも見逃さないと、慎重に様子を伺っていた。

 だからオデットは、心からの言葉だけを発するようにした。


「秘宝などない。お前は、クナイシュ皇帝が……国が傾いてる状況で、まだ宝を隠し持って独占し続けるような為政者だったと思うのか? もしそうなら、わたくしは本気でお前を軽蔑する」

「いいえ、ですから金や宝石ではないと私達は考えております。何か動かせぬもの、使ってはならないもの。たとえば毒とか武器……違いますか?」

「……秘宝はない。それは真実だ」

「わかりました。今日はこれまでにします」


 到底納得した様子ではないが、ジベールはようやく引き下がった。


「話が終わりなら、私は戻る」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る