第21話

昨日、ユリウスが精を放った直後にオデットは苦しみだした。身籠ることがないようにするための呪術なら、少なくとも身体に触るのは問題ないのだろう。


 ユリウスが一歩近づくと、ただならぬ気配を感じたのか、警戒するようにオデットが後退る。ユリウスはそんなオデットを壁に追い詰め、逃げられないように腕で囲った。……昨日確かに感じた情熱を、強制的に思い出させるつもりで。

 うつむくオデットの頬に触れた。


 すると、すぐにオデットの顔色が変わる。


「なにを? やめ、……なさい。やめて」


 少し触れただけでこの反応だ。演技ではなく、今にも倒れてしまいそうに、足を震わせている。


「私だって、苦しむあなたを見たいわけではありません」


 むしろ、二度と呪いによる苦しみを味わわせるつもりはない。

 

「今も、苦しい。……おまえがそこにいるだけで、胸が潰れてしまいそうなほど痛い。……おまえ、わたくしに何をした?」


 それは呪いではなく、心の痛みだ。ユリウスを長らく苛めるものと同種の……。


「さあ、着替えましょう。ジベール殿の前でこんな煽情的なあなたを見せられませんから」

「だから……会わないといっている」

「このまま抱きかかえられて、ナイトドレスのまま、皆の前に連れていかれたいのですか」


 オデットは何かを飲みこんで、黙る。


 また怯えさせているとわかっているが、ジョンと名乗っていた頃ならともかく、今は強要する以外、彼女を動かす術を持っていなかった。

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