第12話

「大丈夫です。落ち着くまでここにいます」


 ユリウスは寝台の縁に腰を下ろし、オデットの手を握りしめる。さっき強く爪を立ててしまったせいで、ユリウスの手の甲は、血が滲んでいたが、それを咎めることもない。


「苦しさの気休めになるのなら、いくら力を込めてもかまいませんよ」


 裸のオデットが震えていると、自分の上着をかけてくれた。与えられた温もりが、少しの安心をもたらす。


「少し、落ち着いてきましたか?」


 オデットは、横になったまま小さくうなずいた。


「今のはなんです?」

「……どうやら呪術のせいらしい」

「なぜ、危険な物だと言わなかったのです?」

「わたくしも知らなかった。ここまで痛みを伴うなんて……」

「一体、何のまじないなのですか?」

「……決してわたくしが身籠もることがないようにするための呪術だ」


 ユリウスは目を見開いた。

 押し付けられた妻が、実は子を孕むことすらできないと知らされてどう思っただろうか。


 もしかしたら、ささやかな復讐になったかもしれない。


 オデットはおかしくてくすくすと笑った。笑いながら大粒の涙を零した。

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