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 あの日から、小鳥遊さんはクラスのアイドルになった。


「小鳥遊さん、オーディションの一次審査、通ったみたいだよ!」

「すごいよね~! 本当にアイドルになっちゃうんじゃない?」

「だよね~! スカウトとかも来てる、って噂だよ! 小鳥遊さん、可愛いもんね~!」


 休み時間、小鳥遊さんのきらきらとした話題が聞こえてくる。小鳥遊さんの話を聞かない日はない。

 でも、私は小鳥遊さんに腹が立ってしょうがなかった。生まれ持ったかわいらしさ、とか、身体つきが羨ましい、はある。私が努力したって手に入れられないものを持っている。というのもある。それは、雑誌のモデルや芸能人に憧れるようなもの。

 一番羨ましかったのは、アイドルになりたい、って、真っ直ぐに言えて、そして、それに向かって努力が出来ることだった。


 とうの小鳥遊さんは、そんな噂話や私の膿みたいな感情、なんて全く気にしていないかのように、楽譜を見ながらイヤホンで何かを聴いている。オーディションの課題曲、って誰かが言っていたのが聞こえてきた。

 きらきらと努力している彼女が羨ましくなって、私は視線を下に向ける。


 誰にも見せたことのない私のノートには、夢の残骸をこねくり回したものが描かれている。

 私は小鳥遊さんに対する理不尽な苛立ちを募らせながら、日々を過ごしていた。

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