願望実現機構(ゴールシステム)

楪 紬木

Prologue0:全ては彼女のために


 とある森林。草木生い茂るこの地には、蛍の光のような優しい光が舞っている。


 幻想的なその景色は、例えるなら異世界にある精霊の森。


 思わず時間を忘れて見とれてしまいそうになるこの場所、実は。


 『もう一つの世界の一部』である。


「僕は、の夢を叶えるんだ。絶対に勝つ」 


 明鏡止水めいきょうしすい。森の中で剣を構える、黒髪の少年。


 彼の名はショウ。顔立ちやたたずまいから滲み出る、穏やかな雰囲気。


 装いは黒を基調とした外套マント付きの軽装。


 その手に強く握る白剣には、歯車などの、機械仕掛けの投影幻想ホログラムまわっている。


 彼は、たった一つの願いのために戦っていた。


 風が吹き。外套マントがひらり、舞う。


「…………来た!」 


 ショウに向かって飛来ひらいするのは、高速の弓矢。彼の中で、時がゆっくり、ゆっくりと流れていく。


 ……まだだ。何故かショウは限界まで、回避をしない。そして矢が鼻先をかすめる、その刹那せつな


 「ふっ――!」 

 

 彼は勢いよく、その場で身体を旋回せんかい。凄まじい速度の矢を回避した。


「……そこにいたのか、狩人」 


 そして、矢の方向から選手プレイヤーの位置を完全に理解。


 加速、加速、加速。


 黒髪の剣士は、標的を目掛けて疾走しっそうする――!


 この世界、勝てば願いを一つ叶えられる。


 しかし…………。


 負ければ一生、願いを叶える権利を失う――。




 ◇◇◇




 一方、現実世界。


 本日は快晴だ。とある未来的都市。大勢の人が集まる、白いドーム型の大型建築物。


 二階、関係者エリアにて。


 ガラス張りの廊下から、人の熱気が渦巻く観戦場の中央にある大モニターを見下ろす女性。


 そこには、黒髪の少年が奮闘する姿が。


 「はぁ、まったく。やりますわね、ショウ。心配は杞憂きゆうだったかしら……わたくしも、そろそろ動きますわ」 


 ウェーブのかかった情熱的なワインレッドの長髪は、火炎を想起させる。遥か未来を見据えるのは、星よりきらめく琥珀色の瞳。老若男女ろうにゃくなんにょ見惚みとれるほどの抜群の体型プロポーションに、高貴なドレスを身に纏う。しかしながら立ち姿は、まさに竜の如き覇気を放っていた。


 彼女はエヌエット・ドラグ・ヴィクトリア五世。


 由緒ゆいしょ正しきドラグ家の長女である。


 通り名を、紅蓮の竜姫。


 六大国を束ねる三名の権利者の一人にり上がり、国をくするために、とある選挙に立候補した。


 しかし、度重なる無鉄砲むてっぽうな行動で立場は弱い。だから彼は動き出したのだ。


 「わたくしのために、こんなに頑張っているんですもの。百倍、いや億倍にして返さなくっちゃ! オーッホッホッホ!」 


 口元に手を添えて、高飛車に笑う。


「そう。国民みんなのためにも、ね」 


 調子づいた、愛嬌あいきょうある笑顔から一転。覚悟を決めた面持ちで歩き出す。


 調査、開始。


 ショウとエヌエット・ドラグ・ヴィクトリア五世。


 遠く離れた立場の二人と、二つの戦いを中心にしてこの物語は動き出す。




 願いを叶える者とは一体、誰なのか――?

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