Chapter3-2 快・進・撃

 そして時刻は現在へと戻る。


 願望実現機構の試合は、早くも中盤戦に移行していた。選手プレイヤーほとんどが戦闘によって『夢の実現における本質』を理解している。よってチームを組み、連携による衝突を繰り返していた。


 穏やかな風が吹く、広大な草原にて。三対三のチーム戦が行なわれている。


 片方はショウ、アクス、ミューズのチーム最高同級生ベストフレンズ


 もう片方は女性三人。イメージは海賊船。チーム戦闘旗艦バトルシップ


「速攻! 陣形フォーメーションアルファで行くぞ、ショウ! ミューズ! 俺様に置いてかれんなよ!」  

「うん、大丈夫!」  

「ふふん、逆にわたしの魔法にどかんと巻き込まれないでよ、きんにくん!」  


 まずはアクスが突っ走り、最前線におどり出る。


「行っくぜ、おらぁぁぁ! 俺様だけを見とけ!」 


 そのたくましい身体で、相手に圧をかけた。味方を護る盾となる。


 アクス・ウォリアーの固有アビリティは『不屈剛体ふくつごうたい』。頑丈な身体は更に、堅牢な肉体へと進化した。装備も鋼の鎧だ。生半可なまはんかな打撃は通さない。


「ふん、格好の的だな! 二人とも、あの連携技で狙い撃っておくれ!」 

『ええ!』 


 相手チームは一人が海賊船長のような服装をした女性。司令塔だろうか。近距離攻撃メインだ。もう二人がそれぞれ赤、黄色とクラシカルな軍服の格好をした女性。遠距離攻撃メイン。炎魔法とマスケット銃。


 赤軍服の女性が、黄軍服の女性が持つマスケット銃にありったけの炎を込めて。


射出シュート!』 


 マスケット銃から、大砲のような火力の銃弾が放たれる。まともに直撃すれば心臓宝石に傷がつくだろう。だが。


「っ、これはヤバそうだね! きんにくん、わたしがいっぱいの盾をつくるよ! えーいっ! 『防壁ノ水音圧フレンズ・クレシェンドシールド』!」 


 アクスの背後から、ミューズが水の魔法を模した杖を器用に回転させ、地面に突き立てる。水の盾が三層、形成された。銃弾を受け止めて威力をやわらげる。


 ミューズ・マジカルの固有アビリティは『水源友音魔法フレンズ・オブ・ウォーター』。文字通り、水をつかさどる能力だ。汎用性はんようせいがかなり高い。


「ナイス、ミューズ……! これなら余裕で耐えられるぜ!」 


 ついに高火力の銃弾が金髪の戦士に命中する。爆裂し、周辺には濛々もうもうと煙が立ち込める。


「本当に耐えてきたね。信じられないよ、アンタのその頑丈さ」 


 しかし煙の中からは、ほぼ無傷の戦士が現れた。チーム海賊船は揃って圧倒される。


「そりゃどうも。ところでだが、もう俺様チームの勝ち、確定みたいだぜ」 

「ふん。冗談はその肉体だけに……いや、あの少年はどこへ――」 


 周囲を見渡した時には、もう遅い。彼は、すぐそこに迫っていた。


「すみません。後ろから失礼します、御三方……!」 


 既に、三人の後ろに回り込んでいたのはショウ。 清流のごとき美麗な太刀筋たちすじでもって心臓宝石を叩く。硝子が割れるような音が響き渡った。


 ショウの固有アビリティは『五感強化』。鋭い五感で危険の察知した。武装スキルの『見切り加速』と組み合わせれば、彼は五秒間全てを置き去りにするだろう。重ねがけも可能だ。ただし、秒数は変化なし。


「あの距離を、この短時間で詰めたっていうのかい……!? いいや、まだ勝負は終わってない」 


 どうやらまだ三人の残機ライフは残っているようだ。そして三秒の間隔インターバル。態勢を整えるには十分な時間。


 「ここからアタシの能力で切り返せば……!」と、背中のサーベルを引き抜こうとする海賊の女性。だが、まだ彼等の猛攻もうこうは止まらない。


「まだだよー! たくさん覚悟してねっ! 『縛水ノ音鎖フレンズ・ロングトーンバインド』!」  


 前に飛び出した水の魔術師ミューズ。突き出した杖の先から、水の鎖を生成する。相手パーティーの全員を拘束し、三秒の隙すら潰した。


「畜生……! 覚えてやがれよ、てめぇら! 絶対ぇに許さねぇからな!」 

「ごめんなさい、これはそういう戦いなので……『僕の勝ち』だ」 


 黒髪の剣士は容赦ようしゃなく、切り捨てる――。


 これにて決着。チーム最高同級生は残機を一つも落とさずに、チーム戦闘旗艦に完勝してみせた。彼らは今、第一州の選手プレイヤーでも注目の的だ。




◇◇◇




戦闘を終えて、チーム最高同級生は奇襲を警戒しながらも草原を歩いていた。


「俺様たち、相性抜群だなぁ、おい! 剣と、盾と、魔法! なんか勇者パーティーって感じだなぁ! アッハッハ!」

「ホントホント! これもうさ、三人で優勝しちゃおうよ! イエーイ!」

「いや。最後は争い合うんだぞ、僕たち。でもこれだけ連携が取れていると嬉しいね」


 ショウ、アクス、ミューズはすっかり浮かれていた。先刻さっきまでは躊躇ためらいを見せていた戦闘もそつなくこなした上で、だ。


 『馴れ』とは、本当に恐ろしいものである。簡単に感覚を鈍化どんかさせる。


「しかし、もう樹海も飲まれたのか……意外とあの境界線、せばまるのが早いのかもしれないな」


ショウは後ろを振り向く。そこには薄橙色うすだいだいいろをした半透明な壁が、実にゆっくりと迫ってきていた。


――其ノ四、選手プレイヤー円磁場エリアを超えて三秒間滞在しても敗北者。境界線は、時間経過とともにせばまる。


境界線は円状に小さくなっており、とある場所へと収束しゅうそくしている。


一時間前に滞在していた樹海は、もう薄橙色に染まっていた。


「そうだな。遅いかもしれんが、見てないとすぐ手前にいる、って感じだ。同じ場所にとどまっていられず、戦闘を回避できないってのは良くできた総則チェーンルールだよな」

蠱毒こどくみたいだね! アハハ!」


ミューズがさらっとエグい事を言う。


「……こどく? まぁ、確かに最後に残るのは一人だけどな?」

「そっちじゃない、とある国の歴史上の呪術。虫を狭いとこで戦わせるあれみたいだね、ってこと」 

「歴史は分からんぜよ……坂本さん風に言ってみたぜ。どうだ? 相棒」 

「どうだ? って、なんだよ」 

「きんにくん、それはめっちゃ赤点かな!」 

「おい!」


談笑。実に微笑ましい光景である。


「で、なんだけどさ! 境界線が収束するところは、ある程度予測がつくよね。次はやっぱあの都市でしょー!」


ところで、と。陽気な少女が飛び跳ね、ツインテールを揺らしながら指さしたのはとある都市。


「……んー? てかあれ、めっちゃめちゃ第一州ルクスに似てなーい?」


覗き込むようにミューズが都市を眺めた。


天高くそびえる鉄塔。浮遊する車が走るために張り巡らされた通管道パイプ。一面に敷かれた歩道エスカレーター。


そのどれもが第一州ルクス・ルインズと酷似こくじしている。


「気のせいじゃないのか? 偶然似てるだけだと思うけどなぁ」

「そうかなぁ…………うーん、まぁいっか! 行こ行こ! ショウちゃん、きんにくん!」


ミューズは、ショウとアクスの手を引き先導せんどうしたのだった。


三人は境界線が収束するであろう都市へ向かう。

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