良い耳を持つ・・・・・。

洗面所にはあまり人が居らず、5つあるドライヤーの内3つは使用中、残り2つが使える状態。空いててよかった。


話し合いの結果、サキドリ緑さんとミミアさんが先に使用することに。

2人とも、本体にぐるぐると巻き付けられたコードを本体から外して使える状態にし、プラグをコンセントに挿すと髪を乾かし始めた。


私は5つの洗面台が繋がった、長い台の上に降ろされています。

ドライヤーが空くまでの間何もすることがないので、ひたすら羽をパタパタ。もうだいぶ水気も飛んでいるので、やる意味は薄い。

髪を乾かしたら、自力移動再開。ミミアさんに迷惑はかけませんよ。


両足を前に伸ばし、両手を後ろについてペタンと座りながら、ドライヤーのブォォォッという音を聞く。

正面の鏡を見ながら髪を乾かすミミアさんと一瞬目が合うが、すぐに鏡へと視線を戻す。

変に乾いたら、ピョコンピョコンの髪になりますもんね。寝起きかよっていう。


足をブラブラと左右に振りながら、自分の服に目を向ける。

完全再生まではあと少し。残りはワンピースの裾だけ。

裾を引きちぎったかのようなワンピースをちょんちょんと触る。

そういえばキャミソールとかタンクトップとか、下着透け防止のものを着てないけど大丈夫なんだろうか。見えてませんか?


「ミミアさんミミアさん」


ブォォォォッ。私の声はドライヤーの音にかき消されてしまう。すごい音だ。

まあ、今じゃなくていいか。そう思ったところで、ミミアさんがこちらを向いた。


「何か言いました?」


カチッとスイッチをスライドさせてドライヤーの稼働かどうを止めると、そう口を開く。

よく聞こえましたね。ドライヤーを使用すると周囲の音が聞こえなくなるのに。

たまたま口が動いているのが見えて、何か話しかけてきていると思ったんだろうか。


「乾かす邪魔をしてしまってすみません。大したことではないんです。ワンピースから下着が透けて見えないかなと気になっただけでして⋯」


きっと透けてないんだろうけどね。透けてたら指摘してくるはずだし、たぶん。


「それ、大したことですよ。見せる用じゃないなら気をつけないと。見られて恥ずかしい思いをするのは自分ですし」


「そ、うですね⋯」


「でもインナー着てたら、そうそう透けることはないはずですから、そんなに気にする必要も」


「⋯着てないです」


「え、着てない?白のワンピースなのにですか⋯?そんなことあります?」


あるんですよね。ほら、今の私です。

ここにいるじゃないですか。自分を指差す。

あ、残念な子を見るような目をしてる。

頭を撫でないでください。違います。着なかったんじゃなくて、種族特性スキルが作ってくれなかったんです。そのせいです。


⋯⋯分体を作る時のイメージ不足が原因ですね⋯。つまり私のせいかっ。

スキルのせいにしてごめんなさい。


今日だけで2回の注意というか心配をされた。1回目はサキドリ緑さんに注意されたあれ。

隣の洗面台で髪を乾かす彼女をちらり。うん、こちらを見ていない。ダブルの注意は避けられる。


「き、着てなかった私のせいですけど、そうなんですけど、透けてないといいなって⋯」


「はいはい、お姉ちゃんが⋯私が見てあげ⋯見ますね」


「お、お姉ちゃんっ?!」


「はい、じっとする」


「え、あ、はい⋯」


妹みたいとか妹欲しいとか言ってたけど、心の中では既に、私=妹と確定されていたんですか?

心の中の想いが飛び出て、お姉ちゃんって口から発射されてましたよ?


ドライヤーを片手に、色んな方向からワンピースを見たミミアさんは一つ頷き、親指と人差し指で丸を作る。


「大丈夫です。厚手のワンピースなんですかね?全く透けてませんよ」


普通のミミアさんだ。さっきとは違う。今のは普通⋯⋯優しい目つきですね。手がこちらに⋯頭撫でるんですね⋯。

さっきと同じや。おねーちゃんモード。


「確認ありがとうございます。透けてなくてよかったです」


ここ数時間の内に変わりすぎじゃないですか、あなた。

優しく家族みたいに接してくれるのは⋯まあ、嬉しいですけども。今生の私の家族、どなたが父親で母親なのか知りませんし。

しかし、ミミアさんがお姉ちゃんかぁ⋯⋯


「それもいいかもね」


現状今の私には家族がいない。生きていく中で、家族が1人もいないというのは寂しすぎる。

私こそ心の中では、家族を、家族と呼べる存在を欲していたのかもしれない。

妖精の森に帰ったら、探してみようかな。たぶんいると思うし。


何はともあれ、下着が透けてなくてよかった。他の人が見て大丈夫と言うなら安心だ。

そう安堵あんどしていると、突然チリンとウィンドウが目の前に。


【〈称号:血は繋がらなくとも我らは姉妹〉を獲得しました。】


「えっ⋯」「えっ?」


声が重なった。見上げれば、驚きの表情を浮かべたミミアさん。

これ両方にきた感じ?


「あの、何かありました?」


「⋯同じ理由で驚いたのだと思いますけど?」


なぜそんな探るような質問を?一緒でしょう?きたの。


「もしかしてそちらも?」


「ですね。姉妹なんとかって称号がきましたよ」


「私と一緒⋯。AI神様が私達の関係を認めてくれたってこと⋯?」


あの、心の声が漏れてますよ。もうお姉ちゃん的発言を隠さないことにしたんですか?⋯⋯元から隠してませんか。

それはそうと、本当に突然ですね。何がきっかけで獲得にいたったのでしょう。


ミミアさんが心の中で私のことを妹として扱っていたことを知った、あの時点での獲得ではなかった。透けてないかの確認の時も違う。

それ以降⋯⋯⋯ん?待てよ、私のあれか?ミミアさんがお姉ちゃんだったら的なことを思ったあれ。

称号獲得の直前だったし怪しい。

AI神様何でもポコポコ作るし、これもそうか。心を覗かれていたんだね。


「ヴェステルさんこの称号⋯嫌じゃないですか⋯?」


称号に鑑定をかけて詳細を知ったのだろう。

ミミアさんが伏し目がちで聞いてくる。

それ小さい私には、こちらを見つめているようにしか見えませんよ。


「別に嫌ではないですよ。嫌だったら、称号にこんな説明文フレーバーテキストが書かれることはありません。何よりそうだったら、この称号自体獲得してないでしょう?」


称号のフレーバーテキストを読むと、双方が心からそう思うことを前提に獲得できるようになっているみたいだし。


「そ、うですよね。うん、そうなんですね。じゃあ、じゃあ、1回お姉ちゃんと呼ん「それは早いのでは?」で⋯⋯そうですか⋯」


ミミアさんはガーンと肩を落とす。

だって早くない?まだ会って1日経ってないのよ?コミュ力お化けだよ。

幼馴染おさななじみ系ヒロインみたいな雰囲気を持っているとはいえ、さすがですミミアさん(褒めてない)。即堕そくおちした私が言えることではないけど。


「中断させた私が言うのもあれですが、とりあえず髪をかわかされては?」


「⋯ですね。乾かします」


ドライヤーのスイッチをスライドさせ稼働。ブォォォッと再度音が響く。


「⋯⋯ミミアお姉ちゃんか⋯うわっ」


鏡の方を向いていたミミアさんの頭が、グリンとこちらを向く。

その向き方ホラー。耳良すぎでは?


「今お姉ちゃんと言い「まだ乾かし中?」ませ⋯⋯すみません、もうすぐです」


髪を乾かし終わったサキドリ緑さんがこちらに来たことで、ミミアさんは会話をやめ鏡の方へと向き直る。


「何かあった?」


「いえ何も。お姉ちゃんができただけです」


「っ!?」「お姉ちゃん?どういうこと?」


ミミアさん、本当あなた耳がいいですね。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〘称号:血は繋がらなくとも我らは姉妹〙

血が繋がっていなくても家族だと、互いに心からそう思うことで獲得できる称号。(姉妹バージョン)

腐血樹くされぢじゅの妖精ヴェステルと、神人しんにん族のハーフエルフ族ミミアが姉妹だと証明してくれるもの。

役所に行ってこの称号を見せると、正式な家族として申請・登録することができる。

この者は自分の家族ではないと両者が心から思うと、この称号は消えてなくなる。


〘家電アイテム:ドライヤー〙

適度な風を発生させ、髪を乾かすためのもの。

基本的に温風が出る強さは3段階。冷風は弱い風が出るだけ。

作り手によって段階数や風の出る勢いが違う。

酷いものになると、床にへばりつくスライムを吹き飛ばす威力がある。

乾かしすぎると、髪や頭皮にダメージを与えることになるので気を付けよう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


60話目。

皆様の評価ブックマーク等に感謝です。

ありがとうございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る