よくある大ピンチなオジサン退魔師と着物の少女。


夜。芦野晴音の部屋。

ミカグラと協力してどうにか晴音さんに事情を説明した。彼女はミカグラを叱り納得はしてくれたが、どうにも浮かない表情でミカグラが中指に嵌めている稲妻模様の指輪を見ている。


「なんで指輪なんです」


晴音さんの声が少し怖い。


「えっと、晴音さんが喜んでいたんで、女の子は指輪が好きなんだなと思って」


お詫びのご機嫌取りでもある。彼女から突っ掛かったとはいえ、退魔師装束も刀も壊してしまった。そこまでするつもりは無かったし、壊さないで勝つことも出来た。

壊してしまったのは僕が未熟な所為だ。ミカグラはため息をつく。


「今回の件。ワタシが一番悪いです。それに関しては久瀬正介に正式に謝罪をいたします。そして指輪も嫌いではないです。ですが指輪の持つ意味を久瀬正介は深く考えたほうがいいと思います」

「それは……申し訳ない」


結婚とかそういう意味合いがあるのは知っていたけど、それに直で結び付けられるほど僕は大人じゃないし子供だ。小学生の僕にとって結婚なんて大人同士がするもので異世界でも遥か遠い無関係なモノでしかない。だからすぐに結び付かなかったけど、中学生と高校生にとっては違うみたいだ。


「それなら観花ちゃん。婚約者がいるのなら指輪はやめたほうがいいわ。正介くん。指輪以外でもいいのよね」

「はい。指輪以外にもできます」


思わず敬語になる僕。


「それならペンダントでもブレスレットにでも」

「いいえ。指輪のままでいいです」


ミカグラはハッキリと言った。晴音さんの顔が曇る。


「どうして?」

「利便性の問題です。ネックレスやブレスレットより指輪の方が利便性が高いです」


そうかな……そうかも。


「でも婚約者がいるんでしょう」

「はい。政略です。それに彼は気にしません」


政略だからかな。晴音さんは悩む。


「……仕方ないけど、正介くん」

「はい」

「これからは安易に指輪はあげないで欲しいです」

「わかりました。すみません」


なんで謝っているんだろう僕。だけどなんか悪い事をしたような気がした。

安易に指輪は渡さない。覚えた。


「さっき装束も武器も確認したんだけど、どれも凄かった」

「使ってみたんだ。どうだった?」

「刀について聞きたいことがある」

「武器? いいよ。なんでも聞いて」


ミカグラは指輪から刀を取り出す。

青い鞘に納められた赤い柄で黒鍔の刀だ。

銘は『滅却退魔三雷刀めっきゃくたいまさんらいとう』という。


「……赤い雷が出た」

「赤い雷ですか?」

「うん。『滅却退魔三雷刀めっきゃくたいまさんらいとう』は青雷。赤雷。黒雷の三つの雷を出すことが出来るんだ。青雷は従来の雷。赤雷はスピード重視。黒雷は重いけど威力重視になっているんだ」

「……あの赤い雷……」

「スピード重視だから威力は一番弱いけどね」

「スピード……」

「黒雷は重いってどういうこと?」

「重いから威力は一番高いってことだね。三つの雷を使い分けたり組み合わせたりすることで、ミカグラはもっともっと強くなれるよ!」


僕は自信満々に言った。

あれ、でもミカグラと晴音さんは微妙な表情だ。

どうしたんだろう。ふたりはヒソヒソと話をしてから、晴音さんが僕を見て言う。


「正介くん。さすがにちょっとやりすぎだと思います」

「えっ、そ、そうかな?」


やりすぎた? でも【金剛祓ノ真鈴】みたいなMAP兵器にはなってないよ。

あれと比べたらオモチャみたいなもんだよ。実際そういうイメージで製造した。


「久瀬正介。雷はひとつ。退魔師でも魔術師でもひとつ。それを三つに分けてそれぞれ特色をつける。この世界には何処にもない技法」

「そ、それは確かに異世界の錬金術と鍛冶と素材を使ったけど……」

「正介くん。わたし。心配なの」

「晴音さん?」

「その凄すぎる力がいつかとんでもないことを起こしてしまうんじゃないかって」

「…………」

「久瀬正介。異世界を救った英雄の力をあなたは自覚したほうがいい」


ふたりに言われて、僕は―――ショックだった。

それはふたりにキツイ事を言われたからでもそれはあるけど、僕自身が僕を過小評価していたことに気付いた。僕は異世界を救った。でも世界をひとつ救った力を僕は軽んじていたんだ。そしてその基準でふたりに接していた。

これは小学生だからって10歳だからって許されることじゃない。


「…………ごめんなさい。ふたりとも。ミカグラ。元にぜんぶ戻すよ」

「それはそれとして、ワタシはこのままでいい。このままがいい。このままでいいからな。絶対だぞ。久瀬正介。ありがとう。本当にありがとうございます。ワタシは想像以上に強くなった。強くなれたのはとても嬉しいです。だから本当にこのままでいいのでどうかお願いします。元に戻さないでください。お願いします」


綺麗な土下座をしてミカグラは早口で言った。


「ちょっ、えっ、ええっ」

「本当にありがとうございます」


土下座をしたまま感謝するミカグラ。


「い、いいけど」


態度の豹変さに僕は困惑してちょっと引いた。


「それでしっかりした使い方を習いたい」

「いいけど」

「正介くん?」


晴音さんの僕を呼ぶ声がコワイ。


「晴音ねえさまと一緒のときにお願いします」

「わかった」


これには晴音さんもニッコリ。

まあ僕とミカグラだけじゃやらかして危ないからなあ。


「そうだったわ。観花ちゃん。3日後。土曜日に芦屋本家の調査隊が来るわ」

「はい。晴音ねえさま。そのときに披露しましょう。ワタシ個人としても芦屋本家に話があります」

「そうなの?」

「はい。大切な話があります」


3日後か。まあ僕には関係ないね。

芦屋本家は話が通りやすいっていうけど、それでも貴族だからね。


「それじゃあ晴音さん。そろそろ帰るよ」


今は夜8時。部屋に戻らないとマズイ。


「うん。後でチャットします」

「ワタシも失礼します」

「うん。観花ちゃん。またね」

「はい。明日、打ち合わせします」

「うん。おねがいします」


こうして僕たちは別れた。


















禁断症状はどんなものにも存在する。

僕の場合は。


夜の22時。


「ありあとやしたー」


やる気のない男性店員の声を聞きながらコンビニを後にする。

歩きながら紙袋を開けてチキンをほおばる。


「やっぱ、これこれ」


コンビニチキン。

最近、分かったことがある。朝でも昼でも夕方でもない。

この時間帯に食べるコンビニチキンが一番うまい。何故かうまい。これはあれか。いけないことをしているときほど美味いってヤツだ。つまりこれがいわゆるひとつの。


「背徳の味ってヤツか」


夜空を見上げて呟く。僕は大人になった気がした。それと1週間に1回は食べないと気が済まない。これが禁断症状か。もぐもぐ。


いつもの公園を通り掛かったとき、さすがに今日は何も無いだろう。いつもいつも食べにいくたび何かあるのは、さすがにどうなんだろう。まあさすがに今日は何も無いだろう。もしあったら呪われて―――誰かいる?


「はぁ、はぁ、はあ、参ったね。オジサン。さすがに疲れたよ」


うわぁっ……血だらけのオジサンが倒れている。その周囲には大量の触手型怪魔が死んでた。オジサンの仕業かな。そうするとオジサンは退魔師か。オジサンの前に触手型じゃないけど怪魔っぽいのが真っ二つにされていて、その先には真っ白いドレス姿の金髪女性。あのドレス。背中がパックリと空いていてエッチだ。

あれは間違いなく人間じゃないな。その金髪女性もどきの前に着物の姿の少女が浮いている。気絶しているようだ。ふむふむ。あの金髪女性もどき。かつて戦った魔神二十七人集に似ているな。正直、二十七人とか多くねって思った。


「さすがは退魔師最強のドーマン。まさかここまでやるとは思わぬかったわ」


あれが最強というドーマンか。オジサンだったのか。まぁ女性にドーマンってどーなんって思っていたけど、男の退魔師も居るのか。


「はぁ……はぁ……参ったね。オジサン。怪魔六業将は……ともかく……こんなのが来るなんて聞いてないね……はぁ、はあぁ……ダメじゃないか……一之天魔様がこんなところに来ちゃ……」


一之天魔様? どこかで聞いたような?

金髪女性もどきは笑う。


「すまぬな。怪魔六業将が立て続けに倒されている。さすがに動かずにはいられん」

「だったら……とっとと帰ってくれないかな……あと、その娘。うちの当主なんで……置いていってくれないかな……はぁ……はぁ」

「早々には立ち去る。だが重ね重ねすまぬ。この娘は返せない」

「はぁ……参ったな……オジサン」

「今生の遺言はそれでよいか」

「…………」

「では死ね」

「それは困る」


金髪女性もどき。もとい一之天魔様が放ったビームを僕は防いだ。


「む?」

「それは困る。どうやらこのふたりは晴音さんの関係者みたいだ」

「ほう。よもやこの一之天魔の閃撃を防ぐとは、ただの小僧では無いな」

「いいや。ごく普通の男子小学生だよ。ただまあ異世界を救ったことがある」


はぁ、やっぱ呪いかな?



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