本の中の異世界物語

就労Bのマサ

第1話 不思議な本屋

 どこにでもある古びた古本屋。

 このネットの時代に本なんて買う人は少ない。私もそうだし、本なんてだいっ嫌い。そう思っていた昨日までは。

 朝になった。いつもの目覚ましが鳴る。しかし、誰も起こしてくれない。なせなら、私は、愛されてないから。そんなことを思っていると母の声が聞こえてきた。


「菫(すみれ)!ゆっくり呼吸して」


 母は、妹の菫を抱き抱えて呼吸させていた。


「ゲホゲホ!」


 妹は、苦しそうに呼吸していたが、次第に咳が止まっていった。


「よかった。菫ちゃん、頑張ったね。まだ、しんどいなら、寝てていいよ。学校には、電話しておくから。」


 毎日、こんな調子だ。妹にばかりかまけて私を蔑ろにして最後は…


「緑!ちゃんと自分のことは自分でしなさい。あなた、お姉さんでしょ。」


 また、始まったお姉さんでしょ。別にお姉さんになりたかったわけではない。なって良いことなんてなにもなかった。この妹のせいで卒業式も運動会も文化祭も親は、来れなかった。それどころか、誕生日会もできない始末。


「私、遊びに行くから。」

「待ちなさい。朝ごはん食べてから行きなさい。」


 そう、母が言うが、


「そんなに娘が気になるなら2人だけでいればいいのよ。」


 そういって私は、バタンとドアを閉めた。妹は、怯えた目で私を見、母は、なんて情けない子という哀れな目で見ていた。

 私は、走った。悲しくて虚しくて悔しくて涙が出そうになったが、小学生の時代に涙も枯れた。いや、もはや、私は、愛されてないのでなく、愛される対象ではないのだと思い出したからだ。


「…なんで、私は、恵まれてないの…」


 石を蹴ったら排水口に落ちていった。私の人生のようだ。あの妹がいるから私は、愛されないんだ。けど、憎いと思ってもなぜか、菫の笑顔が頭をよぎる。


「もう、行くところないよ。」


 そう呟いていたら小さな古本屋が、目に止まった。


「こんなところに、古本屋ってまだあったんだ。」


 昨今のネット時代で紙媒体の本屋は、消えていっているのになぜか、ここは、生き残っている。


「なんで、ここは、潰れないのよ。」


 そんな、興味本位だったのか本屋に入っていった。ドアは、昔ながらガラガラガラと横にスライドさせるタイプ。入ってすぐにレジがある。そして、立ち読みしている老人が1人。


(やっぱり、ここは、潰れるな。)


 そう思っていたらなにやら奥から光が出ている。


(蛍光灯あそこだけ新品なのかな?)


 恐る恐る見てみると一冊の本が光っていた。


(なに、こんな演出の本なんて売ってるの?どんだけ、電気食うのよ。)


 そう思っていると光が強くなっていった。


「え!え?」


 私は、まるでバンジージャンプしたみたいに本の中に吸い込まれていった。そして、本だけが床に落ちた。


「まったく、今時の若いものは本を大切に扱わねえ。」


 さっきのじいさんが、本を元に戻した。


 題名は、「羅生門」


 緑は、不思議な本に吸い込まれてしまったが、元の世界に戻れるのか。

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