第11話 カブノミクス

 新首相となった加部氏は前回首相在任時に憲法改正の野望を口にし、また戦前の教育を礼賛するような考え方を持ち、教育基本法を改正し道徳教育を充実させるよう命じるなど思想的傾向を危険視されていた。

 加部氏の祖父である石金助氏は旧満州国・満州鉄道の発展に重要な役割を果たすなど、大日本帝国のアジア占領政策の中心的存在で、戦後A級戦犯として収監されるがアメリカに情報を提供することで生き延びたと言われる。その後首相となり、日米安保を改定し、憲法改正を掲げた。

 その考え方は戦前の日本を理想としており、日本国憲法は戦後占領したアメリカによって押し付けられたものだから日本人の手で自主憲法を作るべきだ、とよく言っていたそうで、孫である加部氏はそっくりそのまま同じことを言う。

 前政権時に加部氏の思想的傾向がマスコミなどに随分と叩かれたので衆院選前の討論会などでは憲法についてはあまり言わず、デフレ脱却に向けた新たな経済政策として紙幣をたくさん刷って市場に流通させ、経済を活性化させ賃金を上げていくようにする、と新味のある方針を示し、注目されていた。

 新首相となった加部氏に対してマスコミの注目は、カブノミクスと呼ばれた経済政策で、とうとう満額支給されなかった民衆党の口から出まかせの子供だましの子供手当のような政策とは違うものだ、と、これで人々の生活も良くなるかのような喧伝がなされていた。

 竹志も生活が良くなるのであれば人民党でも加部氏でも良いように思うが、報道を見る限り、庶民のところまでお金が回ってくるようには思えなかった。 

 今年のボーナスも当たり前のように給料一ヶ月分程度、と少なく、ボーナスが出ているだけまし、と施設長からは言われ、先々がますます不安になってきた。

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