第4話

 俺は釣り上げた魚娘から、色々と知識を引き出した。

 それは、まるで辞典をめくっているかのようだった。


「お魚の目が濁ってたらダメです!」

「エビは腐るのが早いから注意!」

「アジは目が大きくて視力がいいんです!」


 お、おう……? そうなんだ……。


 最初は軽い気持ちで聞いていたが、気付けば引き込まれていた。

 魚娘は目を輝かせながら話し、手をぱたぱたと動かしながら説明する。

 その仕草が、なんというか――楽しそうだった。


 思ってた以上に、魚屋の話ってのは奥が深い。

 まあ、俺が興味あったのは「釣り」の方だったんだけどな。


「へえ、カズキさんって、ほんとに釣りに興味あったんですね!」


「お、おう。ギャンブル性あって面白そうだし、己の力と頭脳で獲物を取りにいくってのがいい。失敗しても成功しても自分の力。ジジイになっても一人でカジキと戦う。そんな男になりたいぜ」


 俺は昔読んだ本を思い出して、話を合わせた。

 だけど嘘じゃない。


 照れ笑いする魚娘を見て、俺はなんとなく思った。

 あれ、俺……この会話、楽しいかも。


 知らないことを知るのが楽しい。

 教えてくれる相手が、楽しそうなのも、なんかいい。


 (……いやいや、俺はただ情報を引き出してるだけだ。別にこいつを好きになったとかじゃないぞ)


「じゃあ、今度は漁に出るところ、見てみる?」


「……お前、魚屋っぽくない見た目してるのに、そういうのもできるんだな」


「ふふ、沖釣りだけど、まあ、一応……家業なんで!」


 だが、そんな楽しい時間は、たった一晩で終わりを迎えた。


 ****


「今日は特売だぜ!この新鮮な魚がたったの100ゼニコ!」


 ――はぁ?


 いやいやいや、おかしいだろ!!!


 昨日と同じ魚屋。

 でも、そこにいたのはドジっこ魚娘じゃなかった。


 代わりに、妙に愛想のいい男。

 そして……俺の脳裏に浮かぶ、見覚えありまくる顔。


(いやいやいやいや、こいつ絶対、前回の世界で農夫だったやつだろ!!!)


 そいつが今、何事もなかったかのように魚屋で接客してやがる。


 (お前、畑はどうした!? 置いてきたか!? 農業に飽きて魚屋に転生したのか!?)


 てか、転生できるの!? 俺ですら一回現実世界を経由しないと転生できないのに? SSS級転生者? 新レア??


 まてまてまて、落ち着け俺。

 こんな時こそ冷静になれ。

 状況を整理しよう。


 昨日まで魚屋にいたのは、ピンク髪ショートのドジっこ魚娘。

 そして今日、同じ場所にいるのは……前の世界で農夫をやってた脇役モブ男。


 ――どう考えてもおかしい。


 俺は今まで村人の顔なんていちいち覚えてなかった。ていうか、そもそも話しかけることすらまれだった。


 だって脇役モブだぞ!?

 RPGでいえば、建物の前に立ってて「ようこそ!」とか「外を歩くとやがて夜になるのじゃ」とか当たり前の事しか言わない類のやつだろ!?


 そんな脇役モブが、世界を超えてまで再登場するか!?

 しねえだろ!!!


 (……しない、よな?)


 俺の脳裏に、記憶がよぎる。


 『協会が、スローライフを応援してくれるとは限らないから……』


 ――前回の転生の時、リリエールが言った言葉。


 あの時は転生特典のレアスキルくらいに思っていたが……。


 そうか、そういうことか――


 あのドジ女神、また漏らしちゃダメな情報、漏らしやがった。


 こいつらはただの脇役モブじゃない。

 脇役モブ脇役モブでもガチの脇役モブ、転生協会が配置したNPCだ。


 ――しかも


 『世界をまたいで存在するNPC』


 あの世界の農夫もこの世界の魚屋も、している。

 使い回しキャラってやつか。ケチくせえ!


 共通NPCは協会が望む「面白いストーリー」の手助けをするのが役目。

 だから都合の悪い知識を転生者に渡さないよう設計、管理されている。


 使い回しだから大半は知識なんか持ってない。

 その時与えられた役割に沿って農夫や大工、魚屋の仕事をしているだけ。

 自分が何をやっているか分かっていない。

 だから、聞かれても答えられない。もし知っていても隠す。


 おそらくこれで間違いない。


 すると――あのピンク髪の魚娘はなんだ? ってことになるが……。


 ――!?


 その時、俺の中で、すべてのピースがつながった。


 謎は全て解けた……!!

 この転生……今までとは、わけが違う。


 (面白くなってきたじゃねえか!!)

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