乗り換えへの応援コメント
「自己紹介を兼ねて」とありましたので、順に読ませていただきました。各話にコメントしていく形も考えましたが、お返事いただけるとしたらかなりの手間をおかけしてしまうので、十作の中で湾多的にいちばん考え込まされたこの章で、この連作全体の感想をまとめて書かせていただきます。
ひとことで申せば、お世辞抜きで楽しく読める作品ばかりでした。私自身は「ショートショートはオチが命」派ですので、その観点から言うと「よくある病例」「現代のノア」「美人になーる」はもう一つ二つひねりがほしい印象でしたが、世界観のアイデアとか物語の空気感とかを重視する派の書き手・読み手だったら、また別の評価もあるかと思います。
「新種発見」「バカ発見機」はオチと言うより語り方の詰めが物足りない気がしました。「新種発見」などは全体を少し刈り込むだけでだいぶん印象が変わるようにも思います。一見使い古された手口なんですけれど、このオチのポイントは過去作にはなかったユニークなものかも知れません。その点だけでも読ませる作品という印象は受けました。
「ヤマアラシ」は、論理パズルテーマの秀作だと思います。まあ一読してすぱっとこのオチが明解に納得できるかどうかは、かなり読み手を選ぶと思うんですが(私はしばらくしつこく読み直して、やっと筋が通ってることに納得できました ^^)、こういう頭を使う文章を、最低限のシーンと文字数できっちり書ききれるというのは、高い筆力の証だと思います。
「地下室にて」は、やはり論理パズルをベースに置きつつも、掌編を超えた分量になったことで少し内容的にぶれている感じがしました。生きるか死ぬかの緊張感の描写をよりリアルにしてはっきり二万字クラスの短編にするか、あるいはカリカチュアっぽい乾いた筆致で半分ぐらいに刈り込むか。でも、こういうシチュエーションが書きたかったという狙いどころはわかるような気がします。「冥王星の二人」も感想としては似た感じです。いい雰囲気は出てるんですが、この二作はむしろ空気感に流されず、オチまでかっちり作れば、と思わないでもありません。
「じゃあね」はほぼ文句なしですね。ピロートークらしいラブラブな感じがもう少し出ていれば、との恨みはあるにせよ、「世界がなくなる」を、多視点でなく、しかし一人称でもなく、このようにまとめた例は初めて読みました。心にぐっと残る掌編だと思います。ラストの一文が泣かせます。
そしてこの「乗り換え」。アイデアとしては別に新しくもないんですけれど、この手の「意識の移し替え」テクノロジーって、確かに「移動」なのか「コピー」なのか、検証不可能なんですよね。まあその点をおろそかにしたまま実用化してしまうというのはあり得ないんですが、商売する側としてはどっちでもいいわけで、しかもクレームが来る可能性が絶対ないように仕組めば万々歳と言うところでしょうか 笑。
こういう"不完全な商品"アイデアは、普通こういう方向でストーリーを作ったりしないと思うんですが、あえてこの道を取って掌編にした、というのが、なんだかすごいな、と思ってしまいました w。ただ、「元の体に意識が残っているのに身体機能が失われる」のはなぜなのか、という説明と、「科学者たちはその欠陥をわかってるのかわかってないのか」の明示と、この二つはほしいです。科学者がわかってないのならブラックギャグですし、わかってるのなら本物のブラックですね。それならおのおので書きかたも多少変わってくると思うんで。
それにしても、十篇ものショートショートを「自己紹介がてらに」束にしてアップできるその筆力には敬服します。私なら、ちまちま一作ずつ挙げて……いや、その前にこんなに書けませんけれどね……。
日頃こんな感じで周囲のフォロワーさんと本音交じりのやり取りしてるんで、つい無粋な書き方になってしまいました。もっとポジティブな言葉でいっぱいにしたかったのですが、つい習い性で……。このような講評めいたコメントはあまり歓迎しない、ということでしたら、その旨忌憚なくおっしゃってください。
ほんとうに歯ごたえのある掌編集でした。暑苦しい長文、どうぞお許しくださいますよう。
作者からの返信
湾多先生
初めまして。わきのです。こちらのようなご指摘は大歓迎です。返信には波があるかもしれませんが、ぜひこれからもお送りください。
詳細な講評ありがとうございます。こちらの作品は自己紹介のために用意したというわけではなく、昔から書き溜めてボツ稿になったショートショートを、web小説アカウント開設に伴ってまとめたものです。今後は一作品ずつ……という運用になるかもしれません。期待外れでしたら恐縮です。
作品に対するご指摘も仰る通りだと思います。「よくある病例」「美人になーる」あたりは、自分としては作品の緩急を生むために入れた小噺です。作品の成立の都合上、もともと短編として成立していた「地下室にて」を本作に収まるサイズにしきれなかったのも事実です。
私自身は、「ヤマアラシ」「じゃあね」あたりの作風が本当に書きたいテーマだと感じています。掌編はしばらく控えますが、テーマは今後も深化させていく方針ですので、ご覧くだされば幸いです。
P.S. ペンネームに何だか親近感がわきました。よろしくお願いいたします。
わきの
現代のノアへの応援コメント
神様、やるじゃん!
でも、ノアさんは、自信作が無碍にされたことについては、さみしかったでしょうね。
作者からの返信
namakesaruさん
レビューありがとうございました!
まあ、命あっての物種ということで……。
わきの