第157話 腐女子、代償を支払う
ルークさんによると、ここは
まあ、使用人に騒がれるくらいなら謝れば済む話だが、まずいのは兵士に見つかった場合。というのも、城内にいるのは一般的な腰抜け兵士じゃなく、
そんな、誰もいない
「ミア! タラキくん! 無事だったか!」
懐かしい方の顔、兄とお
「リンジー。心配を掛けた」
「お久し振りです。リンジーさん」
俺とミアさんが、口々に
「陛下から、この部屋で待ってたらルークさんに会えるって聞いてね。ビクターさんとグラハム先生と、三人で待ってたんだよ」
なるほど。で、初めて見る方の二人が、ビクターさんとグラハムさんか。
「それより! ミルズくんから聞いたよ。腕が元通りに――なったように見えるけど、そうじゃないのか」
「はい。獣人の腕で代用してます」
俺の右腕は以前、リンジーさんが見ている前で吹き飛び、肘から先が無くなった。通常の打撃ではダメージを与えられない、馬鹿でかいサイズのクロウラーを倒すため、拳に
で、そのことで
「いやあ! むしろ、そっちの方がいいよ! 右腕が獣人だなんて、まるでヒーロー小説の主人公みたいな――」
「それより、初めての方がいるんだ。自己紹介がしたい」
ミアさんが話を
「自己紹介も何も、ミア・ドラウプニルを知らない者はこの城内にいないよ」
「い、いや。アタシはそうかもしれないが、タラキやアニスは――」
と、今度は背の高い方――ビクターさんかグラハムさんのどっちかが、苦笑しながらミアさんの話を
「ドラウプニル侯。ここからだと、本棟まではしばらく歩く必要があります。陛下がお待ちですし、よければ移動しながら話しませんか?」
「え? あ、えーっと、そうですね。そうしましょう」
その提案に、軽く
まあ、いずれにせよ、ここまで来たんなら引き返すという手はないな。万が一、ミアさんを
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
背の高い方の名前はビクター・ドレイファス。
「カーライル。久しぶりだが、元気にしてたか?」
「はい。先生も変わらずご
カーライルくんがビクターさんを先生と呼ぶのは、士官学校時代、彼から剣術を教わったからだ。何でも、
「しかし、グラハムくんがおるとはのう。驚いたわい」
「いやあ。昨夜、リンジーくんに叩き起こされましてね。おかげさまで、大変な一日になりましたよ」
背が低い方はキーン・グラハム。首都大学時代のリンジーさんの恩師で、現在は皇帝の相談役を務める学者。極端な猫背に小さな眼鏡を掛けた、温厚な
「それはすまんかったのう。昨夜はワシが、そこのカーライルから愛の告白をされてしもうて――」
「それは余興です!」
な、何だって? カーライルくんがルークさんに?
と、俺、ミアさん、ビクターさんの目がカーライルくんに集中する。刺すような視線の中、
「お前、大丈夫か? まさかとは思うが、サンダースに感化されて――」
「ち、違いますよ! 一緒にしないでください!」
「な、何てことだ。サンダースに続いて、お前まで筋肉教に――」
「ドラウプニル様! 違います! 釈明させてください!」
というわけで、カーライルくんの説明ターン。昨夜、お酒の席での余興として、当たりくじを引いたものが『王様』となり、外れくじを引いた者に対して好き勝手命令できるという、『王様ゲーム』なるものをやったと。その際、
ちなみに、二回名前が
「お……お前は止めなきゃいけない立場だろうが!」
で、話を聞いたミアさんが、当然のように
「ご……ごめん、悪かった……」
「ドラウプニル様! クラウディア様の顔が真っ青です!」
カーライルくんに
「誰だ! そんな下らない余興をやろうと言い出したのは!」
「も……もちろんギデゾウくんだよ」
やはりか。あいつのことだから、たぶん、リンジーさんが腐女子であることに気付いて、ならば盛り上がること間違いなし、なんて考えたんだろう。しかし、異世界で王様ゲームねぇ。あいつ、やっぱりアホだな。
怒り冷めやらぬといった様相のミアさんをなだめるように、ビクターさんが苦笑しながら話し掛けた。
「ドラウプニル侯。ギデゾウ殿が言い出したことなら、仕方ありますまい。私もあの御方と少し話をしましたが、何というか……有無を言わさず巻き込んでいくような、独特の雰囲気がありますからな」
「ま、まあ、それは分かります。アタシのときもそうでしたし」
「人の心に入り込むのが、抜群に上手い方なのでしょう。現に、陛下ともあっという間に打ち解けてしまいましたしな」
「あいつ……まさか陛下に対しても、いつも通りの口調で?」
「ええ。陛下も、そういった方とお話するのは
「は、はあ。楽しんでいた、と」
そう
「まあ、ちょっと前まで魔王を名乗ってた奴に、常識なんか求めたって無駄ですよ」
「……そうだな。まったくその通りだ」
俺の言葉に、ミアさんは顔を上げ、ビクターさんに声を掛けた。
「ビクター殿。取り乱して申し訳ありませんでした」
「お気遣いなく。確かに、ギデゾウ殿は魅力的な方ではありますが、一緒にいると大変だということも理解しておりますので」
ミアさんは小さく吹き出し、笑顔になって答えた。
「
「ええ。友人としては最高の方ですが、それ以上の関係になるのは
ビクターさんの言葉に、ミルズくんとアニスさんを除いた全員が大声で笑った。
……いや。ギデゾウを知らないアニスさんは分かるんだけど、何でミルズくんまで?
ていうか、
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
行き交う使用人たちに会釈しながら、長い廊下を歩く。しかし、さすがは帝国最高峰の使用人たち。アニスさんの
先頭を歩くビクターさんが、
「それでは、陛下にお声掛けしますが、準備はよろしいでしょうか?」
ビクターさんの問いに、みんな一斉に首を縦に振った。
ビクターさんは
「陛下! ビクター・ドレイファス、客人をお連れ致しました!」
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