第029話 セカンドキスも突然に
「針千本でも針億本でも大丈夫ですよ。嘘なんかじゃありませんから」
「じゃ、じゃあ……開けますよ」
かかった! リザベルさんの眼前に俺のドルマゾーラが!
なんてことはしない。絶対に。
「ね? 嘘じゃないって言ったでしょう?」
「そんな、
リザベルさんはくすくすと笑った。
うん。今更だけど……やっぱり可愛い……よな。
「で、でも、お風呂ってほんと気持ちいいですね!」
「
ん? 俺に関する情報は、全部あの紙に書いてあるんじゃないのか?
まあ、そんなとこまでいちいち覚えてないか。
「大好きですよ。リザベルさんは?」
「私は超が付くほどのお風呂好きです! 毎日一時間は入ってて、お母さんに怒られてますから! けど、ほんとはもっと長く入りたいんです!」
おお。リザベルさん、お母さんがいるのか。って、当たり前か。
それはともかく、リザベルさんが自分のことを話したの、初めてかもしれない。二年前は名前しか教えてくれなかったのに。
「じゃあ、今入ったらいいじゃないですか」
「その手には引っ掛かりませんよ。残念でしたね」
うーん。そんなつもりじゃなかったんだけどな。
まあ、
「ここって、いつまで入ってていいんでしょうか?」
「そうですね。短時間としか書かれてませんでしたから……適当でいいんじゃないですか?」
しかし、あの冊子に管理者という言葉……何だか気になる。
リザベルさんは転移後について、やらなければいけないことなどは特になく、好き勝手に生きるだけでいいと言っていたが、本当にそうなんだろうか。
おっと。そんなどうでもいいことは後回しだ。
今お前は、全力で取り組まなければならないイベントの真っ最中だろう?
さあ、言うんだ! 『約束のこと、覚えてますか?』と!
「ところで
「ほあああぁっ!」
「えぇっ? な、何ですかその反応?」
なんて声出すんだよ俺!
しかし……まさか向こうから来るとは思ってなかった。
「あ、いや! えーっと、覚えてます! もちろんです!」
「うう……」
「恥ずかしいですけど、超楽しみにしてましたから!」
今のは悪くなかったぞ俺!
そうだ。この程度の明るいスケベはむしろ
「それで……ずっと気になってたんですけど、あんな妄想してた人が、それくらいのことで本当に満足できるものなんですか?」
「うっ! い、いや! 妄想は別ですよ!」
まずいぞ!
しかし、あれは本人がリアルタイムで聞いていたことだから、今さら言い
「正直に話すと……ご
「よ、よかった……」
ホントによかったな!
いやもう、マジで心臓止まるかと思ったよ。止まってるけど。
「けど、妄想してたようなことを受け止めるのは――」
「本当です! あんなことしたいなんて、ほんとに思ってませんから!」
頭を下げろ! 全力で
「お願いです。信じてください……」
目を
「そうですね。
「信じて……くれますか?」
頼む……頼むよ……
「はい。信じます」
「よおっしゃあああああ!」
遂に……遂に
俺は頭を下げたまま、両拳を
「絶対に、裏切らないでくださいね」
「当たり前です! リザベルさんを裏切るような奴は、針億本でも
リザベルさんはくすくすと笑った。
今更だけど、ほんと……凄く可愛い、と思う。
「
「はい……」
言われるがまま、俺は目を閉じた。
けど、何でほっぺにキスくらいのことで、ここまで真剣なんだろう。
いや、俺みたいな童貞にそんなことを言う資格はないってことは分かってるけども。
これくらい、今どき子供同士でもやってることで――
あれ? この
え?
ええ?
ええええええええええ?
「あ……あのアノあのアノ」
「ど、どうしました? 私の、何か変でした?」
「あのアノあのアノあの」
「
「アノあのアノあのアノ」
「落ち着いてください! 全裸で倒れられたら困ります!」
息が続かなくなった俺は、荒い呼吸に合わせて胸を上下させた。
やばい。肩まで湯船に
「あの……約束、覚えてなかったんですか?」
「え? 覚えてましたけど……」
「ということは、うろ覚えだったんですね?」
「お、教えてください。いったい……何が問題だったんですか?」
言っていいものだろうか?
いや。俺一人ではこの
言うしか……ない!
「それじゃ……言いますよ」
「はい……」
俺は胸の
「ご
そう。今更こんなこと説明するまでもないのだが……
うっかり者のリザベルさんは、キスをする場所を間違えてしまったのだ。
そして、俺は同日にファーストキスとセカンドキスを経験したことになり……
いや待て! ロイの胃液はノーカン! あんなのをキス
これが俺のファーストキス! 異論は絶対に認めない!
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