PassionFlower

なぎのき


 大通りから外れ、人気のなさそうな寂れた小道に入ると、途端に不安に襲われる。来るな、戻れと頭の中に、誰かが話しかけているような感覚。

 それでも、強い意志を持って歩を進めると、徐々に看板が見えてくる。

 その看板には、素っ気ない文字で、こう書かれていた。


 『江藤生花店』


 あちこちに空き地が目立つ、寂れた景観に埋もれるように、ひっそりとその店はある。

 店内をちらりと目をやると、所狭しと植物が並べられ、奥に木製のカウンターが構えている。

 さらに目を凝らすと、一六、七歳くらいだろうか、明るめの茶色い髪の少女が、カウンターに顎を乗せぼんやりしている。きっと店番を任されたバイトか何かだろう。看板娘なら留守番娘と言う訳だ。


 そのまま店を素通りすると、大きな通りにぶつかる。

 多数の人の気配が、はっきりと感じ取れる。

 振り向くと。

 まるで見えない壁があるかのように、寂れた道が立ち塞がる。

 もう戻ってくるな。

 振り返るな。

 そう言っているかのようだ。

 

 ——まるで異世界だ。


 そんな感覚を抱かざるを得ない。


 ただ一つ印象に残ったのは、外からはっきりとは見えない位置にあった花だ。

 あまり見かけない形をしているその花は、花弁と花びらがまるで時計のようだった。

 後で調べた所、それは『トケイソウ』と言うらしい。

 英名は『PassionFlower』。

 花言葉は「神聖な愛」やら「信念」やら「宗教的な熱情」やら。

 あの店には、そんな大層な意味が込められた花は、きっと似合わない。

 だが同時に、あの店にこそあの花が必要なのだ、と感じた。

 なぜかは分からない。

 

 ただ——そう感じたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る