第1話 遭遇!白日の犯行 2

ザワザワッ、ザワザワッ、


 急に大きな独り言を言った僕に、周囲から奇異の目が集まる。


(しまったぁ~! また、やってしまった……!)


 熱くなると思った事を口に出してしまうのが僕の悪い癖だ。


(えっと、何処か姿を隠せる場所は……!)


 周囲からの突き刺さる様な視線に晒されながら視線を動かすと、『BANK of NEO』と書かれた看板が目に入った。


(『BANK of NEO』? そんな銀行聞いた事……いや、そういえばニュースで見たっけ……つい最近、日本に進出してきた外資系の銀行だったかな……? ちょうど手持ちも少なくなってきたし、ネットバンク経由でお金を降ろそうかな? 周囲の視線も痛いし……)


 僕は逃げる様に銀行へと入っていく事にした。しかし、店に入った僕を待っていたのは店員さんの「いらっしゃいませ。」という定型の挨拶ではなく、


「お前ら! 命が惜しかったら手を頭の上にあげたまま動くんじゃねぇ!」


 小銃を構えた男達の怒声だった。


「はい?」


 突然の状況に僕の口から思考が漏れる。思わず出た声に男の一人が僕に気付き、こちらに銃口を向ける。


「おい! そこの間抜け面した兄ちゃん! 命が惜しかったら手を上げて他の客の所に行きな!」


(銀行強盗!?)


 僕は内心驚きながらも、男の言うとおりにする。僕が他のお客さんと合流した事を確認した男はこちらには興味が無くなった様で、こちらに背を向けるとカウンターの向こうにいる仲間に話しかけた。


「そっちはどうだ!?」

「こっちも大丈夫だ!今、店の奴に金を詰めさせている!」

「奥の金庫は!?」

「そっちには支店長のおっさんを連れて、藤堂達三人が行っている!」

「よ~し、金目の物を集められるだけ集めたら、さっさとトンズラするぞ!」


 やはり男たちは銀行強盗の様だ。と言っても、銃を持っている事から特殊犯罪者ペリルではなくて一般人の様だ。もし、彼らの中に特殊犯罪者ペリルがいるならば銃なんて意味がない事なんて理解しているだろうし、そもそもこの街で犯罪を行おうとは決して考えなかっただろう。

 等と僕が考えている間にも、彼らは金品を袋に詰め込みながら会話を続ける。


「しかし、この街で銀行強盗をするなんて誰も想像つかねぇだろうな」

「まったくだ。普通ならお偉い救人セーバー様がすぐにすっ飛んできやがるからな。しかし、この店だとそうはいかねぇ。セレブ向けの銀行とか何とか謳いやがってよ。壁は完全防音だわガラスはマジックミラーだわで店内の様子は外からはまったく見えない造りだ。おかげで、外の連中はこっちの様子に気付く事もなく呑気に歩いてやがる……まぁ、そこの兄ちゃんが入ってきた時は少し驚いたがな。だけど見る限りでは外の連中はこっちの様子に気付かなかったみたいだし、問題ねぇだろ」

「つってもよ。あんまり時間を掛けちまったらバレる可能性はあるからな。なるべく急いだ方がいいに越したことはねぇな」


(なるほど……それなりに考えての犯行みたいだ……でも、彼らは救人セーバーを侮り過ぎている。完全防音にマジックミラー……? たかがそれくらいで救人セーバーの監視から逃れられると考えている事自体が甘すぎる。すぐに救人セーバーが来て彼らは捕まるはずだ。なら、僕がするべき事は、下手に動いて無駄な怪我人が出さない事……ここは大人しくしておこう……)


 僕が男達への対応を決めていると、


「へへへ、お待っとさん」


 店の奥から更に銃を持った三人の男と、彼らに背中へ銃を突きつけながら歩かされる一人の男性が現れた。白髪にピッシリとしたスーツ姿から、あの男性が先ほどの彼らの話にあった支店長なのだろう。


「……!」


 支店長は怯えた様子で不安そうに眼を動かしている。当然だ。いつ男達の気まぐれで殺されるかも分からないのだから。しかし、そんな支店長の様子を意に介さずに目の前の男が奥から現れた男達に声を掛ける。


「首尾は?」

「バッチリだ。こいつを見てみろよ」


 男達が嬉しそうに複数の大きな袋を掲げて男に見せる。それを見た男もニヤリと笑みを浮かべた。

「よし! そんだけありゃ充分だな。さっさとズラかるぞ。裏口の車へ運べ」


 目の前の男の言葉に奥から来た男の一人が支店長の背中を銃口で押す。

「このおっさんや他の従業員と客の連中はどうする?」


 奥から来た男の問い掛けに目の前の男は薄ら笑いを浮かべる。

「おいおい? 俺たちにプレゼントをくれた支店長さんだぞ? もう少し丁重に扱ってやろうじゃないか。と言っても、そいつにもう用は無ぇな。他の奴と同じ様に縄に巻いて動けない様にしとけ。っと、そうそう忘れていたわ。こっちの兄ちゃんもな」

 目の前の男がクイッと僕を指差す。その言葉を聞いて、

「男なんて縛っても楽しくねぇな~」

 軽口を叩きながら別の男が縄を持ちながらこちらへとやってくる。


(良かった。どうにかこのまま誰の危害も出ずに済みそうだ……)


 そんな事を僕が考えた矢先、予想外の事態が起きた。


ウィーン、


「あなた達! そこまでよ!」


 銀行の扉が開くと同時に入ってきた女性が男達を指さした。突然の乱入者に男達は女性に銃口を向けるが、

「何だ嬢ちゃん!? 救人セーバーか!? って、そんな訳ねぇか……どう見ても制服姿の学生だしな……」

 女性の服装を見て首を傾げた。


 男の言葉通り入ってきた女性、少女は学生の様だった。少女が着ている制服は上下共にエンジ色で胸元には派手な大きなリボンが付いていた。その制服に、僕は見覚えがあった。


(あれって……お嬢様学校で有名な道明寺女学園の制服だよね……?)


 制服が示す学校を思い出しながら、僕は続けて視線を上げると少女の顔を見た。

 派手な制服の上にある少女の顔はもっと派手だった。年の頃は服装から考えても17、8だろう。生糸のような艶やかで色素の薄い金髪に意志の強さを表すかのような眉、瞳は大きく色は珍しい碧色をしている。白い肌と興奮で赤く染まった頬、そこから顎までの流麗りゅうれいなライン。そこにいたのは一級の工芸品の様に整った顔立ちの少女だった。


(綺麗な子だな~……)


 状況を忘れて僕は少女の顔に見惚れる。


 一方、少女は首を傾げた男に向かって更に言葉を続けた。


「私は土師はじカレン! この店舗の責任者よ!」


 少女、カレンさんの言葉に男は少しの間固まると、

「……はぁ? 嬢ちゃんが責任者? 何言っているんだ? 支店長はそこのおっさんだろうが?」

 銃口で支店長を指差した。しかし、男の言葉にカレンさんは否定する。


「彼は副店長で私の代理よ。私がいない間のサポートを任せているわ」

 そこまで言うとカレンさんは自らが今入ってきた入り口を指差す。そして、

「あなた達、今すぐに皆を解放して大人しく出ていきなさい。そうすれば、今なら罪には問わないであげるわ」


「「「「「……」」」」」

 突然の彼女の言葉に思わず顔を見合わせる男達。


……


 男達の間に沈黙が流れ、


「「「「「ぎゃはははは!」」」」」


 男達の笑い声が店内に響き渡った。


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