第1話 喰うか喰われるか⑦
力なく零して机に突っ伏してしまった。
「よくないわよ、だって無実なんでしょう?」
「どうせ誰も信じないもの、俺の言うことなんて」
「まさか……なにか証拠があるって言うの」
「あるわけないじゃん。相手の女子のことなんて知らないしうちの一年とそんなことした覚えもない。その子も泣いてばかりでまともに説明してくれないから一方的に決めつけられて好き勝手言われて……」
深いため息を吐いて「疲れた」と消え入りそうに呟く。顔を伏せているため表情は窺い知れないが、泣いているのではないかとさえ思えた。
「さがっ」
ぐううう。
相模の腹が鳴る。こんなときに……!
「お昼食べ損ねてお腹空いたし。ほんといいことないよ。そういうことで俺忙しいから、金森さんに構ってる暇はないの」
しっしと手で追い払われる。どうやら相模はこの件の一切を諦めてしまっているようだった。
だけど、本当にそれでいいの?
吐き出さずにはいられなかった。
「ねえ……本当に証拠はないの?」
「しつこいな、だからないって」
「じゃあ先生たちはなにを根拠に決めつけたのよ」
胸の内でむくむくと疑念が膨らんでいく。証拠もないのに、こんなに理不尽なことってない。いつか詳細に検査をすれば真実は明らかになるだろう。けれどそれまでの間、相模はこの理不尽に耐え続けなければいけないのだ。
「トイレで吐いてたらしいよ」
「……それだけ?」
「あとは最近の様子とか、色々総合的に見て」
「それ、もっと詳しく教えて」
相模は訝しみながらも昼の面談で得た情報を私に教えてくれた。そうしているうちにひとつの可能性に辿り着く。
どうして相模のせいにしたのとか、詳しいことは本人に聞いてみないとわからない。
「相模、面談の場所は?」
「応接室。……えなに着いてくるの?」
応接室か。ならば職員室の所が一番近いはずだ。あそこなら、生徒が使うこともほとんどない。
「相模」
なるべく真剣な表情を作ると、相模は戸惑ったように私を見上げた。私よりも大きな体で、性格だって全然可愛くない、むしろクズなのに、その瞬間だけは相模がまだ幼い子供のように見えた。
「本当に釈明するつもりはないのね」
「……ないよ」
「そう。わかった」
相模の声には深い諦観が滲んでいた。自分がなにを言っても誰にも信じてもらえないという計り知れない絶望。
そんなの、ふざけんなだ。
「なら私が証明してやるわよ」
だから私は高らかに宣言した。
「……は?」
相模が目を見開く。
面談は二十分後の予定だから、もたもたしている暇はない。さっさと彼女を探しにいかなくては。
その場を切り上げて立ち去ろうとした私の手首を相模が掴んで引き留める。
「どうやって。無理だよできる訳ないじゃん。なに様のつもり? これ以上こじらせないでよ。なんなの金森さんって、俺のなんでもないじゃん」
「なんでもないわよ、それがなに?」
「迷惑だって言ってんの」
「知らね」
あっけらかんと言ってのけたら、相模がぽかんと口を開いて固まった。
「だって私、あんたなんかどうでもいいもの」
「……どうでもいいなら、首突っ込まないでよ。かっこつけてんの?」
「それが私の生き方なの」
相模がクズでも、そんなの関係あるか。これは相模のためなんかじゃない。ただ私が私のしたいようにやる。偽善だと、“かっこつけ癖”だと笑われても構わない。
理不尽を前に目を背けるなんて。
「私が私に誇れないような生き方はしないって決めてるから」
あの子のために。
「……は、なにそれ」
相模が力なく笑う。
「どうせなんにも言い返せない。陰キャのくせに」
私は舌打ちをひとつ、手首を掴んでいた相模の手を振り払うと、逆にこちらから掴み上げた。
陰キャの分際で僭越ながら言わせてもらうなら。
「黙って着いて来い」
❁.*・゚
職員室傍の女子トイレに人気はなく、静まり返っている。
けれど私は個室から人の気配がしたのを見逃さなかった。
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