ぼっちで異世界山暮らし 〜チート料理スキルで聖女と呼ばれているらしいですが知りません引きこもります〜

海橋祐子

プロローグ 社畜OL、異世界に飛ぶ


魔王の復活により魔素の濃度が上がり、凶暴化した魔物が大量発生し、国民の生活が脅かされているマトニア王国。

魔素溜まりが各領地に出現し、聖騎士団の魔物討伐もままならず各地の冒険者ギルドに委託しているものの、根本的な解決にはならずじわじわとその脅威が広がっている。

魔素溜まりを浄化するためには、聖魔法を使える魔導士が必要であり、その聖魔法はこの世界において非常に希少な存在だった。

国が滅ぶ寸のところまで追い込まれた元老院率いる王宮魔導士達は、かつての文献にあった聖魔法の伝説の使い手「聖女」を召喚するために、禁忌とされる聖女召喚の儀を執り行い、2人の女性を召喚した。


1人はうら若き17歳の少女。艶々なキューティクル天使の輪を煌めかせ、丸々に開いた大きなゴールドブラウンの瞳からハラハラと涙を流した。

召喚された際に打ったのか、制服のスカートから覗く膝は擦りむき赤くなっている。

その庇護欲掻き立てられるか弱い姿に、大きな魔法陣を囲うように立っていた数十人の人影がオオッと騒めいた。


「ああ、ついに、ついに聖女様をお迎えすることが……! こんな暗い場所に申し訳ございません。お怪我はございませんか」


「いえ、あの。ここは……」


金色の刺繍を施された白いローブを羽織ったいかにも上官らしい男性が恭しく首を垂れ、手を差し出した。

女の子は戸惑いながらもその手を取る。


「ここはマトニア王国、召喚の間でございます。私は魔導師長、ゾーマと申します」


「……あかりです。篠宮あかり」


わあっと野太い歓声と共に、その2人を囲うように周囲の人影もわらわらと集まっていく。


少女のようになぜか魔法陣の中心ではなく、弾き飛ばされるように勢いよく魔法陣を転がって登場したアラサーの女は、極々数人の困惑している人影がオドオドしている中、その光景をぼけっと見つめていた。


そうです、今の光景は私の実況でお送りしました。

誰宛かって、そんなものは知らん。


なんて明晰すぎる明晰夢なんだ、と思ったものの人知れず派手な登場をした際に打った頭と膝が燃えるように熱くて痛い。

おかしい、なんで私はここにいるんだろう。

会社からいつも通り23時過ぎに出て、終電より少し前の電車に今日は乗れて、最寄りの駅に着いてコンビニに寄ろうと思ったら急に辺りが真っ白に光って……。


グラグラとする体を支えるように濡れた石畳みの床を押し付ける。松明に照らされた剥がれ掛けのネイルがやけに目についた。


気がつけば女の子を囲った軍団はサッサか消えて、女の側には退散しそびれた困った顔をする若い魔導士が1人だけ、ぽつんと残されていた。


「あの、」

「ひゃあ!」


ガタガタと震えながら腰を抜かした男性に、あ、なんかすまんと心の中で謝る。謝る必要はないけれど。


「自己紹介、必要ですかね?」

「あ、ど、どうぞ」


聞かれてもない、求められてもいない。暗いジメジメした広い空間で間抜け面のくたびれた女が、はじめましてをした。


遠山三郷、29歳。仕事が生き甲斐と自分に言い聞かせて暮らしている1k8万のアパート住み社畜。

この度なんか異世界召喚されたっぽいです。



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はじめまして。気まぐれに投稿はじめてみました。

本日はプロローグのみですが、明日は下記時間に3話予約投稿しております。


【予約投稿時間】

8:00 / 12:00 / 18:00


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