返信
縄、車の鍵、地図で指定された教会、妹島を殺害しろという指令、仁子のパーカー。
「つまり……この教会に社用車を使って妹島先輩を連れて行き、縄で首を絞めるとかで殺害しろ、従わなければ、仁子ちゃんを殺すぞ……て、ことでしょうか?」
高崎は、「まず間違いないでしょう」と付け加える。
「たぶんそうでしょうね。病院から妹島を連れ出して、殺す。そこはいいとして」
「……いいんだ……」
「いいでしょう? あの人は、それだけ恨まれているんですから、自業自得です。それよりも気になるのは、仁子のことです。妹島を殺害したからって、本当に仁子を無事に返してくれるのでしょうか」
紗栄子が気になっているのが、あくまで仁子の安否ということらしい。
「確かに気がかりですね。では、この指令に返信してみればどうでしょう」
「返信? 返信できるのですか?」
「できます。一度も返答はありませんが」
高崎だって今までに連絡を試みたことはある。指令が来るアドレスに、質問を送ったりもした。だが、返信など一度たりとも返ってきたことはなかった。
「じゃあ、これはどうでしょう?」
紗栄子は、手早く高崎のスマホで返信用の文章を作る。
『こちらには、貴女が事件の主犯である証拠がある。取引だ。仁子を返せ』
「え、証拠?」
「もちろんハッタリです。ですが、向こうだってきっと、こんな文章を読んだら不安は拭いきれないのではないですか?」
高崎が反論する前に、紗栄子はメールを送ってしまう。
「え、ちょっと! 紗栄子さん! そんなことして、危なくないんですか? 向こうは、こちらを攻撃してくるかもしれないですよ」
「仁子が人質なんですよ? こちらがただ言いなりだと思われる方が危険です!」
「だとしても、もっと神経を逆なでない文言を考えた方が良かったのでは……」
「仁子は、今、危険にさらされているんですよ? いつ、犯人が仁子を殺害するか分からないのに、そんな弱気なことを言っていられません」
紗栄子に睨まれて、高崎は何も言えなくなった。
高崎としては、素直に従っているふりをして、そのまま相手の隙をみる方が性に合っていたのだが、紗栄子には、それでは不満のようだった。
「これで、返信するようならば、相手はきっと焦りはじめます。相手を少しでも揺さぶらせることが出来れば、本当に証拠も見つかるかもしれませんよ」
「見つかればいいですけれども……」
見つからないのに、相手が取引に応じてくれば、紗栄子はどうするつもりなのだろうかと、高崎は先々のことを案じてため息をつく。
「ともかく、ここで待っていても仕方ありません。一旦、社用車を取りに会社へ移動しましょう」
高崎は、紗栄子を促して、移動を始めた。
依頼人からの返信は、まだ無かった。
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