【10月30日書籍発売】辺境領主の俺は悪役令嬢として追放された嫁のため、大国を滅ぼすことにした。
イコ
序章
プロローグ
フォルムア大陸は巨大な壁に囲まれていた。
一つの大国と四つの小国が領土を争い、共存しながら生きている。
大地も海も、すべては壁の内側にあり、人々はその壁を世界の果てと呼んだ。
その壁に、ただ一つだけ存在する転移門。
いつ造られ、なぜそこにあるのか、誰も知らない。
転移門の向こうには死の大地と呼ばれる異境が広がり、そこからは「災害」といわれる魔物が現れる。体長は三メートル級。大きければ十メートルを越える巨体が人々を襲った。
普通の人間族が生きられない場所であり、ゆえに、壁の中のフォルムア大陸は、魔物の脅威に晒されながらも領土争いを続けてきた。
かつて大陸は、人間族と魔族に二分されていた。
魔王と呼ばれた魔族の王は、亜人を率いて戦いを挑んだが、人間族の数の多さ、そして勇者と呼ばれた代表者の奮戦により、人間族が勝利する。
覇権は一つの大国へと集約し、現在のヴァルトゼン王家が大陸を支配した。
敗北した魔王の系譜に従った亜人たちは行き場を失い、世界の果て、転移門近くの荒れ地にノア=アルマ連合国を築いた。
その一角、第四戦区防衛管轄領地・通称ヨンク。かつて勇者が魔王を討った最果ての地であり、最も呪われた地と恐れられている。
そこに一人の領主がいた。
♢
朝霧がゆっくりと田畑を包み、遠くから鳥の鳴き声と、牛の鳴き声が交互に響く。
土の匂いと、焚き火の煙が混ざり合い、春の訪れを告げる陽の光が、まだ乾ききらぬ畦道に差し込んでいた。
そんな田舎の朝は早く農作業をしていれば、すぐに時間は過ぎてしまう。
いつの間にか、時刻は昼を過ぎになっていて、ノア=アルマ連合国の一つの領主として会議に参列していた。
「エルド」
「はい!」
連合国の重鎮達が顔を揃える会議室に、俺の名前が呼ばれる。
年配の爺様や婆様が一斉にこちらを見て、ため息を吐いた。
「エルド・ガレヴィ。其方はまだ独身じゃったな?」
ドワーフの領主である、バッサム長老が睨みを効かせる。
「えっ? まぁ、うちのような辺境の田舎領地に嫁いできてくれるような酔狂な貴族令嬢はいませんから」
嫁さんは平民でも良いと思っていたが、これでも連合国の一つの領地を任されている身としては体裁がどうとか言われて、結婚ができないまま三十歳を過ぎてしまった。
「うむ。そこで此度、王国からご令嬢が、連合国に嫁いでくることになった」
「はっ?」
「年齢は十八歳。名前はノーラ・フィアステラ様じゃ。元々は、第三王子の婚約者として、妃候補ではあったが、罪を犯したそうでな。国外追放されて、連合国に流刑になった」
「なんですかそれ?!」
フォルムア大陸において、ヴァルトゼン王国は一強と呼ばれるほどに力を持った大国である。
ノア=アルマ連合国からすれば、ヴァルトゼン王国の決定に逆らうことはできない。つまりは、厄介払いを引き受けさせられたというわけだ。
「罪人であってもヴァルトゼン王国の侯爵令嬢だ。下手に扱うわけにはいかぬ。そこで、独身ながらも我らがノア=アルマ連合国の代表の一人であるお主に任せたい。嫁として迎えよ」
「なっ?!」
そんなことを急に言われるとは思わなかった。
「なんじゃ? 我々に逆らうのか?」
「うっ!」
ここに集まった爺様、婆様たちに俺は逆らえない。
年端も行かぬ俺がノア=アルマ連合国を引き継いだ時に、色々と世話になった人たちだ。
しかも、今回の結婚も、言葉とは裏腹に、俺のことを思ってくれている。
「ハァ〜わかりました! わかりましたよ。だけど、俺は女の子を無碍にはしませんよ。大切にします。まぁ、その子がうちの田舎を受け入れてくれればですが」
「それでええ。最初から、お前は」
「あ〜! もういきますよ? 会議はどうせこの話がメインでしょうから」
俺は小言が始まりそうな気配を察知して、立ち上がる。
だが、婆様の一人である、オン婆がギラリと俺を睨む。
「全くお前は人の話を聞かんか! 良いか、侯爵令嬢は、一週間後にこちらに到着する。その時までに、領地に夫婦で住める屋敷を作っておけ。それと領民への説明も忘れるなよ。良いな?!」
威圧を含んだオン婆の言葉に俺は深々と頭を下げた。
「わかりましたよ!」
俺は会議室を出て「ハァ〜」と深々とため息を吐いた。
「帰るか」
俺は肉体強化の魔法を施して、空を跳んだ。
ノア=アルマ連合国は、大小様々な国々が集まって一つの集合体として助け合ってきた。
こうして空から見下ろせば、それぞれの異文化が混在している姿を見ることができる。
「ふぅ」
そして、名もなき丘に降り立って、小さな領地を見下ろした。
「ヨンクは、今日ものどかだな」
俺が受け継いだ領地の正式な名称。
『第四戦区防衛管轄領地・北西前線拠点兼農業振興指定区』
立派な名がついてはいるが、実態はただの田舎だ。
「おお、エルド様、おはようございます。じゃがいもが、今年はよくできとりますわ」
「おっちゃん、腰の調子は大丈夫か?」
「もうバッチリです」
朝から鍬を振るいながら、頑張るおっちゃんの手伝いをする。
「エルド様〜!!!」
そんな俺の元に遠くから声が聞こえてきた。
「エルド・ガレヴィ様、どこですか? おかえりなのは見えましたよ!」
「おう! こっちだ」
領主である俺が帰還したことを、すぐに察知したようだ。
こうして領民と共に汗水垂らして畑を耕している場所に、領地で従者をしてくれている夜人族のアルヴィが走ってきた。
「こんなところでおられたのですか?! 領民の手伝いもいいですが、知らせが届きました」
「魔物か?」
「はい!」
「行くぞ」
この領地では、頻繁に魔物が現れる。
大切な農地を守るために、領民全員で戦いに向かう。
何せ、兵も、農民も、漁師も、戦士も、すべてがこの領地では、畑を耕す片手で武器も振るう。
魔物の群れが現れるのは日常茶飯事だ。
そのすべてを押しとどめるのが、俺たちの役目だ。
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あとがき
どうも作者のイコです。
こちらの作品は、書籍化が決まりました。
双葉社のMノベルズ様より、2025年10月30日に発売されます。
それに伴って、設定の修正を行っていきたいと思います。
しばらくの間は、推敲したものと、先々の話で齟齬があると思いますが、少しずつ修正をしていきますので、温かい目で見ていただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いします。
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