第6話 迫る危機
陽一は決して後戻りはしないと心に誓っていた。しかし、その決意が次第に彼を追い詰めていくことになるとは、まだ彼自身は完全に理解していなかった。
その日、陽一は中村と共に再び会うことを決めていた。シンカに対する反撃を本格的に開始するためには、もっと具体的な情報が必要だった。中村から得た協力者や支援を通じて、陽一はようやくシンカの内部に入り込むための手がかりをつかんだが、それでもまだ完全な信頼を得るには時間が足りなかった。
陽一がカフェで中村を待っている間、彼の携帯電話に不審な着信があった。番号は見覚えがない。陽一は一瞬迷ったが、すぐに電話に出た。
「陽一君、久しぶりだね。」
その声を聞いた瞬間、陽一は思わず息を呑んだ。声の主は、かつてシンカに勤務していた上司の加藤だった。加藤は、陽一がまだプロジェクトを進めていた頃、よく指導してくれた人物であり、シンカの中でも影響力のある人物の一人だ。
「加藤さん、どうして…?」
陽一の問いかけに、加藤は冷静に答えた。「君が今どんな状況にいるか、少し知っている。お前の計画がどう動き出したか、シンカの連中も気づいているだろう。そして、君が今行動を起こせば、どんな結果を招くかもわかっている。」
陽一の胸に冷や汗が流れた。加藤の言葉には、ただの警告ではなく、陽一の行動を抑え込もうという意図が感じられた。しかし、陽一は揺るがなかった。
「僕はもう引き返せません。シンカの不正を暴き、あの連中に復讐するんです。」
加藤は一瞬黙った後、少しだけ口調を変えて言った。「君のやり方には、どうしてもリスクが多すぎる。君一人でシンカに立ち向かうのは、あまりにも無謀だ。君を守りたい気持ちはあるが、今の君には僕が助けられる限界がある。」
陽一は冷静に考えた。加藤の言葉は、ただの忠告ではない。彼の背後にもシンカの大きな力があることを示唆している。陽一が進む道を暗に指摘しているのは、加藤がまだシンカの一員として力を持っていることを意味していた。
「じゃあ、何か方法があるんですか?」
陽一は強い口調で尋ねた。加藤は少し考えてから、ようやく答えた。
「一つだけ方法がある。君が本気で復讐したいのなら、まずはシンカの外部ネットワークを叩け。お前が持っている証拠だけでは、シンカ内部の体制は動かせない。しかし、シンカが繋がっている別の企業や団体に目を向け、そこの裏の取引を暴けば、シンカの体制そのものを揺るがすことができる。君がその証拠を世間に晒せば、シンカは全てを失うことになる。」
その言葉を受けて、陽一は改めて自分の手に持つ証拠を見つめ直した。加藤が言う通り、シンカ単体ではなく、その周辺の企業や人物をターゲットにすることで、より大きな影響を与えることができるのだと気づいた。
しかし、陽一がその戦略を実行しようとしたその矢先、突然の電話が鳴った。今度は中村からだった。
「陽一、お前を守るために一つ言っておく。シンカはもう、お前の動きを全て把握している。お前がどこにいるか、誰と会っているか、全て監視されている。」
陽一はその言葉を聞いて、すぐに身の回りを確認した。カフェの外から視線を感じ、急に警戒心が高まった。中村の言う通り、自分の行動が完全に把握されているのなら、次の一手を打つには注意深さと時間が必要だ。
「わかりました。次の手を慎重に考えます。」
陽一は電話を切り、立ち上がってカフェの中を見渡した。どこかに監視者がいるかもしれない。その瞬間、陽一の目は一人の男性にとらえられた。目が合ったその瞬間、男性が急に席を立ってカフェを出ていった。
陽一はすぐに立ち上がり、追いかけることに決めた。恐らく、シンカの手先だろう。だが、追い詰めることができるなら、今がそのチャンスだ。
彼はカフェの外に飛び出し、その男を追いかけた。だが、すぐに振り返ると、その男は見失ってしまった。周囲には誰もいない。
その時、陽一の心に不安が広がった。これは罠だ。そして、彼はもう、後戻りできない地点に来ていることを痛感した。
シンカとの戦いは、これから本格化する。そして、それはどんな危険を伴うことになるのか、陽一はまだ全てを理解していなかった。
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