8月26日

 8月26日、あと6日で夏休みが終わる。子供たちは楽しかった夏休みの終わりを惜しんでいる。いつまでも続いてほしいと思っても、夏休みにも終わりがある。そしてその先に学校がある。残念だけど、いつまでも休みでいたら成長できない。


 真人も夏休みの終わりを感じていた。そして、河童との別れが近づいているのを感じていた。その間に、何か心に残る事をできたらいいな。河童が元の世界に戻っても、後悔のない何かを。


「おはよう」


 朝食を終え、真人は部屋に戻って来た。昨日は東京ジョイポリスに行ってきて、とても疲れている。だけど、自由研究を進めなければならない。今月中で終わらせなければ。今年の自由研究はかなり容量が大きい。だけど、やりがいがある。きっとみんな驚くだろうな。


「おはよう」

「今日は自由研究を一気に進めないと」

「そうだね」


 真人は椅子に座り、自由研究を進め始めた。なかなか進まないけれど、進めないと。そして、みんなを驚かせないと。今年は河童と出会って、とても特別な1年だった。それに応えないと。


「昨日あんなに遊んだんだもん。楽しかった?」

「うん。ここに来た事、忘れないよ」


 真人は立ち上がり、外の景色を見た。普通に見ていたこの景色も、300年前からやって来た河童が見ると、驚きが隠せなかった。そう思うと、この景色が何か特別なものに見えてきた。どうしてだろう。


「ありがとう。300年後の世界もいいもんでしょ?」

「比べ物にならないぐらい発展したし、楽しくなったね。でも、自然がなくなったのが残念だな」


 河童は残念に思っている事がある。それは、自然が亡くなってしまった事だ。渋谷にあった河骨川もそうだし、よりよい、豊かな生活を送るために発展してきた中で、多くの自然が奪われてしまった。それはいい事なのか、悪い事なのか、真人にはわからない。


「確かに。だけど、田舎に行けばまだ自然が残ってるよ」

「うん。発展と自然の調和の中で、人は生きてるって事かな?」


 真人は河童の言った言葉に感心した。確かに、人間は自然豊かな地球に生き、様々な生物と共存している。そして、環境を守りつつ、発展してきた。それはとても素晴らしい事だと思う。


「そうかもしれない。そして、この先、世界はどうなっていくんだろう。だけど、世界が平和であってほしいね」

「うん」


 そして、真人は再び椅子に座り、自由研究を進め始めた。とても真剣な表情だ。河童はその様子を見ている。真剣な真人の姿を見ていると、自分も頑張らないとと思える。誰かが頑張っていると、自分も頑張らなくっちゃと思えてくる。河童にはその理由がわからない。


「忙しいの?」

「ああ。もうすぐ夏が終わるんだもん」


 真人は焦っていた。夏休みが終わるという事は、宿題の期限が終わってしまう事を意味する。何としても早く完成させないとと思えてくる。


「そうだね・・・」


 ふと、河童は寂しくなった。その様子を見て、真人は思った。今月限りで元の世界に戻るから、寂しいと思っているんだろう。だけど、心の中ではいつでも会えるから、心配はないだろう。


「もうすぐ帰っちゃうの?」

「うん。残念だけど」


 と、真人は河童に抱き着いた。突然の出来事に、河童は驚いた。急にどうしたんだろう。


「君と過ごした夏、忘れないよ」

「僕も! 未来の世界を見れて、よかったよ」


 河童はここに来れていいと思っている。将来、江戸改め東京がこんなに発展するというのを目で感じた。とてもいい勉強に慣れた。この経験はきっとこれからに生かされるだろうな。


「僕も思ってるんだ。この先、世界はどうなっていくのかなって。それも大きなテーマだなと思って」

「本当?」


 河童は驚いた。真人がこんな事を考えているとは。自分も何か、大きなことを、重大な事を考えないと。


「うん。きっとすごい自由研究になるぞ!」


 それから、真人は正午までずっと勉強していた。それを見て、河童は思った。どうして自分は努力できないんだろう。


「真人ー、ごはんよー」


 真人はその声に反応して、立った。もう正午になったのか。今日の昼食は何だろう。匂いから何なのかわからない。


「はーい!」


 真人はダイニングにやって来た。今日の昼食は麻婆豆腐だ。とてもおいしそうだな。


 真人は昼食を食べ始めた。それを見て、夏江も食べ始めた。


「もうすぐ夏休みも終わりだね」


 それを聞いて、真人は焦った。早く進めないとと思ってしまう。あんまり言われたくないのに。


「うん。早く宿題を終えないと。あとは自由研究だけ」

「まだ出来上がってないの?」


 夏江は心配になった。真人は本当に完成させられるんだろうか? 来月までかかってしまうんだろうか? それはいけない。今月中に完成させなければならないのに。


「かなり容量が大きいからね」

「東京の歴史を調べてるの?」


 夏江は知っていた。真人の様子から見て、今年は東京の歴史について調べていると思われる。とても壮大な研究だな。自分では全く想像できないよ。


「うん。どうしてわかったの?」

「ここ最近、東京の事を調べてるから、やってるのかなと思って」


 真人はびくっとなった。自由研究の内容がばれてしまったとは。どうしよう。だけど、もう後戻りできない。それを進めないと。


「確かに調べてるよ。それをテーマにして、これから東京は、そして日本はどうなっていくのかなって」

「すごいじゃん! どうしてそんな事を考えようと思ったの?」


 突然、夏江は真人の肩を叩いた。頼れる息子だな。きっと真人はいい子になるぞ。


「そ、それは・・・」

「言えないの?」


 さすがにその内容はわからないようだ。だが、みんなが驚く内容だろうな。これは期待しないと。


「うん。何となく調べたいと思って」

「何となくとは思えないよ!」


 夏江は疑っていた。どうしてこんな事を調べようと思ったんだろうか? 何か秘密でもあるんだろうか? だが、その理由を知る事ができなかった。でもいいだろう。知られたくないものもあるんだから。


「そう・・・、かな・・・?」

「真人、頑張ってね! 期待してるぞ!」


 真人は改めて思った。応援してくれる母のためにも、今月で自由研究を終わらせないと。

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