原点にはいつもアニメがある

七海 まち

はじめに――平成のお茶の間から

 ものごころついた頃より、私の生活にはアニメがあった。


 年齢がばれるのを恐れずに書くが、八十年代から九十年代前半にかけてのテレビ番組表にはほぼすべての局に毎晩七時からのアニメ枠が存在していた。一例をあげると、月曜はジャングルブック少年モーグリ、火曜はサザエさん(再放送)、水曜はドラゴンボール、木曜はジャングル大帝、金曜はドラえもんとナディアで土曜はおぼっちゃまくん、日曜はキテレツ大百科と世界名作劇場――といった具合だ。

 幼時、私はこのように曜日と主要なアニメをひもづけて記憶しており、まだ日が高いうちから「今日はドラゴンボールの日だな」などとワクワクしていた。いまだにこの組み合わせをはっきり思い出せることからも、当時の私にとってのアニメ視聴が食事や睡眠と同じく日々の生活に不可欠だったことがよくわかる。


 そんなアニメ漬けの子どもだった私は、小学校に上がるかどうかくらいの時期からぽつぽつと創作行為を始めた。最初はイラストや漫画を描いていたが、自分より絵のうまい同級生の存在と、クラスメイトに言われた「その子の次に絵がうまいね」という言葉により早々に意欲をなくして放り出した。負けず嫌いでなんでも自分が一番でないとすまないという性格ゆえに下されたこの判断は、今振り返ってみても間違ってはいなかったと思う。私は絵の才能も、絵にかける情熱も全く持ち合わせていなかったのだ。


 漫画を捨てた私は、「おまえは文章がうまい」という母の言葉に気をよくして小説を書き始めた。その際参考にしたのはもちろん、それまでに自分が摂取した数々の「物語」である。


 媒体別の体感鑑賞量は、「アニメ:漫画:小説=6:3:1」といったところだったと思う。漫画は『あさりちゃん』や『ドラえもん』、小説では『ドッキリふたご名探偵』シリーズや『ズッコケ三人組』シリーズなどを好んで読んでいたが、ルーティーンのごとく生活に組み込まれていたアニメから受ける影響は漫画や小説よりもずっと大きかった。

 何しろアニメには音と動きがある。音楽、生身の人間があてた声、想像せずとも目の前で動いてみせてくれるキャラクターたち。彼らの行動やセリフ、それによってつむがれるエピソードは、こうした刺激の手伝いもあり、小さな脳みそに次々とストックされていった。


 そもそも、テレビは受動的なメディアである。夜の娯楽の中心がテレビだったあの時代、ブラウン管から流れる映像は半ば強制的なものとしてお茶の間を支配していた。金曜の七時はドラえもんを見る時間であり、そこに身体的・精神的要因は一切影響しない。眠かろうが友達とケンカして落ちこんでいようが、発熱して倒れでもしていない限り「その時間にドラえもんを見る」というタスクは決してキャンセルされないのだ。


 一方で、漫画や小説は能動的なメディアである。意識して手に取らない限り始まることはないし、集中して続けない限り物語が進むこともない。一日十分の運動も一か月、一年と続けていけば決してばかにできない時間になるのと同じように、一日三十分から一時間の受動的アニメ時間は私の中で確かな土壌となり、長じて後に実をつけることになる「創作」という畑の基盤を作り上げたのである。


 この畑は、使いものになるまでに大変時間を要した。どれだけ種をまいても、ろくな芽が出てこないのである。どこかで見たことのあるような花を咲かせるのに精一杯で、実をつけるところまではとても到達できなかった。


 しかし継続というのはすごいもので、「いつか小説家になる」という思いが良い具合の肥やしになったのか、「今日はドラゴンボールの日だな」から数えて千五百回ほどの水曜日を経た頃、ようやく畑に実が生った。ありがたくも児童文庫の賞をいただき、作家デビューすることになったのである。


 こちらも大変ありがたいことに、二〇二〇年九月から年に三回のペースで刊行を続けさせていただいている。十冊を超える物語を書く中で思い知ったのは、自分がどれだけたくさんの作品から影響を受けているのかということだ。その中には無意識になぞってしまっているものもあり、ふとした瞬間に気づいては身震いをするようなこともしばしばだ。


 固まりきっていない柔らかな心と脳みそで受け止めた作品の数々の、なんと力強いことよ! 大人になった今でも鮮明に覚えているシーンやセリフは、確実に私の創作における栄養となっている。


 今回このエッセイでは、主に未就学児~小学生時代に見ていたアニメを中心に、その作品が私の創作に及ぼした影響について語っていきたい。できるだけ多くの作品について語りたいという思いから、比較的最近のもの、大人になってから見たものについても取り上げようと思う。

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