第四章:30 seconds left until the explosion.

3階に到着し、エレベーターを降りると、そこには無機質で何もない部屋が広がっていた。コンクリートの壁と床が広がり、隣には青い古びたドアが付いている(別の部屋に通じているみたい)。その部屋の中央には、最近ではあまり見かけない古いデザインのテーブルがあり、カチッ、カチッ、と秒針を鳴らす小さなアナログ時計が置かれていた。時計が気になった私は、それに近づき、じーっと見つめる。

「ダメ…! それに近づいてはいけないの!!!」

後ろから叫ぶような声が聞こえると、私たちの目の前にメガネをかけた小柄な女性が現れた。探検隊がよく着ていそうなポケット付きの丈夫な服に、「3F管理人」と書かれたシールを貼った赤いヘルメットをかぶる彼女は、全力で時計に近づく私を止める。

「近づいてはいけない?どういうことですか」

「それは時計じゃない。時限爆弾なの」

部屋の空気が急に張り詰める。


「私は洞窟を探検するトレジャーハンター。今、机の上に置いてあるのは、私がある洞窟で発見したいにしえの爆弾。私の見積もりによれば、あと15分でクラーキャッスルが崩壊するほどの大爆発を起こしてしまうんだ」

「そんな……。何か阻止する方法はないんですか?」

「あそこに青いドアがあるのが見えない? あのドアの先に爆弾の解除方法が書かれた古代書物の保管部屋があるの。でも、ドアに鍵がかかっていて入れなくて」

「鍵か……」

「とにかく、時限爆弾を停止させたらエレベーター起動カードをあげる」

彼女はそう言い残すと、いつの間にかいなくなっていた。


ここまででわかる通り、鍵のありかを探す手がかりはゼロ。そんな状況の中で鍵を探せというのは、とんでもない無茶振りである。普通の人なら爆弾解除を諦めて、爆弾から遠く離れた場所へ逃げていくだろう。しかし、私は幽霊である。幽霊というものは鍵なんてものは関係なく、壁やドアをするりと通り抜けることができる。だから、鍵を探すよりも私が青いドアを通り抜けて古代書物を見に行ってきた方がずっと早い。

「私は幽霊だから、鍵なんてものは関係なく通り抜けられるの。ちょっと扉の先にある書物を見てくるね」

「助かる。ありがとう」私の隣にいる小柄な男の子、ミナトはそう答えた。その声には私への期待が込められている気がする。




私が爆弾の解除方法を古代文章から読み取り、ミナトの元へ戻ってきたのは爆発5分前だった。戻ってくるのが少し遅くないかという話だが、古代文章は少し難解な日本語で書かれており、意味を読み取るのに手間取ったと言い訳しておこう。

「針を逆に50回回す」簡潔に言えば、これが爆弾の解除方法だ。「なんだ、意外と簡単な解除方法じゃないか」とは言えない。なぜなら時計の針は少し重く、回すのに時間がかかるからだ。幽霊よりも人間の方が力は少し強い。そのため針を回すのはミナトの担当となった。


爆発まであと3分。彼は時計の針に指をかける。冷や汗が背中を伝う。

1回……2回……3回……。


あと1分。手が震える。

35回……36回……37回……。


あと30秒(30 seconds left until the explosion.)。汗が滴り落ちてくる。

48回……49回……50回……。

秒針の音が止まった。もうカチッ、カチッ、という指を伝わる小さな振動もない。

「止まった…?」彼は恐る恐る指を離す。爆弾は、動きを止めていた。

「やった…。やったぁ…!!私たち、爆弾を解除させたんだ!!!」ついつい私の気持ちが漏れ出てしまった。その声は部屋の全体に大きく響く。

「やるじゃない!」

管理人は私たちの目の前にさっと現れ、笑いながらエレベーター起動カードを差し出した。私はそれを受け取り、ほっと息をついた。背後には、静寂を取り戻した部屋が広がっている。

「さて、次の階に行こう!」私は、ミナトの手を引っ張りエレベーターへと向かっt

「ちょっと待った。僕たちさっきから動きっぱなしだし、ここらで休憩しない?」私は彼の言葉にハッとする。そういえばこのビルに入ってきてから数時間、私たちは派手に活動していた記憶しかない。このままだとエネルギー切れで倒れてしまう。そう思った私は快く「うん」と答えた。


こうして私たちは、爆弾解除に成功し、今は危険が一切ないこの部屋で少し休むことにした。近くにある窓は、今が夜であることを示している。私はあらかじめ持ってきた幽霊専用エネルギーチャージを口に入れ、壁に寄りかかった。


「ねぇ、さっきからイクラがこのクラーキャッスルに何のお願いをしに来たのか気になって。よかったら教えてよ」ミナトのそんな声が私の耳に入る。さっきから顔に生気がなくて、何にも興味を示しません!って感じのオーラを放っていたのに、そんなこと気になってたんだ。

「…。いいよ。教えてあげる。私がお願いすることはただひとつ。私を生き返らせてほしいの」


これから語るのは、私がまだ人間だった頃の、決して忘れることのない日常。そしてそれを一瞬で壊した、赤い液体に染まった絶望の記憶。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る