ZERO外伝『均衡なき抑止の果てに』 エピローグ:「その引き金の向こうに」

“平和”とは、武器を持たぬことではない。

“戦争”とは、弾丸が飛び交うことだけではない。


「恐れによって成り立つ均衡」


それはいつか、ほんの一つの狂気で崩れ去る。


その日、世界は思い知った。


引き金の下にあるのは、守るべき国土ではなく、

遠い海の向こうにいる“名もなき命”だったことを。


ある国の少年は、ニュース画面を見つめていた。

燃え盛る演習場、凍りついた国会、涙を流す母親たち。

そして、そのどれにも写っていないはずの、**“誰か”**の気配。


「……誰かが、止めてくれたんだね」


少年はそうつぶやいた。


誰も知らない。

名もない。

姿も見せない。

だが、世界の裏側で――


「その“正義”は、万人のためのものか?」


そう問いかけた“影”がいたことを。


やがて、ニュースキャスターが語る。


「複数の国家が、核戦力の自主的な棚上げを宣言。

軍備縮小への国際的対話が始まっています――」


TVを見ていた祖母が、静かに言った。


「争いが終わるのは、誰かが滅んだときじゃない。

誰かが“もうやめよう”って言ったときなんだよ」


少年は空を見上げた。


どこかにいるかもしれない、正体不明の“影”に――


「ありがとう」と、心の中でだけ呟いた。


私は神ではない。

それでも、人は裁きを欲している。


核という名の均衡が、破られるその前に。

人々の“目”が、ほんの少しでも、真の平和へ向いたのなら――


それだけで、私は存在する意味がある。


ZERO――それは、人の歪んだ正義に問う“影”にして、

 静かなる審判。

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