第6話
『間もなく、一番線に、各駅停車・・・』
ホームアナウンスに広輝は我に帰った。
気が付くと、何処からかパラパラと人が集まって居た。
時計を見ると間も無く列車が到着する時刻だ。
地元の人間は広輝の様に30分も前に来る様な事は無いらしい。
広輝の前に一際目立つ2人が立ち止まった。
楽しそうに話す彼等の声は、その表情は周囲の目を引く。
地元の中学生だろうか。
濃紺のジャージにスポーツバッグを抱えている。
そういえば、昨夜、まだ見慣れない地方局のアナウンサーが夏休みに入ったと言っていたのを聞いたのを思い出す。
その地方の方言で話すローカル番組が余所者の広輝には印象的だった。
「今日ユイの奴高田と仲良さげにしゃべってたな。」
背の低い方の少年が話しかけていた。
「そうだったか?」
もう1人の少年が興味無さ気に言った。
「お前気になんねーの?」
「なんで?マネージャーが部員と話すの普通だろ?
っつーかオレはこの暑さが気になる・・・」
すっとぼけた様に背の高い少年が言う言葉を何か言いたげにもう1人の少年が聞いていた。
広輝の見る限り、話題の女の子が気になっているのはどうやら背の低い方らしい。
クスっと込み上げて来る笑みを噛み殺した。
微笑ましい、と思う。
ユイ、という女の子は彼等の部のマネージャーなのだろう。
「今日マジ暑かったなぁ。
マジシゴかれたし・・・」
「今日お前何本ダッシュした?」
臆面無く笑みを零しながら話す彼等が眩しく思えた。
(そう言えば・・・)
広輝はふっと思い出した。
(中学、割とここの近くだったよな・・・)
今迄思い出しもしなかった。
広輝は中学生の頃この地方に住んでいた。
とは言っても此処からは電車で一時間は掛かるだろう。
一度広輝が勤める支店がある街へ出て、そこから出る特急列車に乗れば着く筈だ。
高校に入ってすぐ、家庭の都合で都心へ引っ越す前迄住んでいた。
この辺りでは最も都会の地方都市だった。
今迄たいして思い出しもしなかったその頃を、やけに懐かしく感じる。
妙に、焦れったい様な気分になる。
何か、思い出しそうな・・・
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