第4話
あ、はい、と慌てて置いてあったペットボトルを手に取る。しかし滑って落ちてしまった。
「ナメてんのかてめー!」
逆上して身を乗り出してきた。頭が真っ白になる。
どうしました、と店長がやってきて仲裁に入ってくれた。
「申し訳ございません!」と謝罪をし、俺も無理やり頭を下げられる。
「代金は結構ですので」と言うとチンピラは舌打ちをしながら去っていった。
「キミ、ちょっとこっちに」店長がそう促し、俺をスタッフルームに来るようにと言われる。
チラッと横目で本荘沙耶を見ると、彼女は視線を外した。
惨めだ‥。そして店の前には先程のチンピラが俺を見て、これみよがしに先程無料で渡したペットボトルを口につけている。
嘲笑われたような気がした。
「キミ、クビ」
「‥え?」
何を言われているのかが理解できず、俺は聞き返した。
店長は溜息をつき、頭を抱えながら「クビ」と繰り返す。
冷たくそう告げた店長は、分からない?と続けた。
「客からのクレームが多すぎる。やる気も感じられないし、店の評判にも関わる。今月のアルバイト代は渡すから」
そう言って封筒を手渡してきた。
俺が呆然と立ち尽くしていると、店長は「まだ何か?」と聞いてきた。
俺はその封筒を握りしめ、急いで着替えて店を出た。
くそ!くそ!
「クソっ!」
目の前の空き缶を蹴る。それが音を立てて人に当たった。
スーツ姿の男性。ジロリと俺を睨む。
俺はその場から逃げるようにして走る。
分かってる。分かってる。俺が、この世で一番生きている価値のない男だってことくらい。
アパートに戻り、そのままベッドに横になった。
疲れた。
バイト代すら貯まらない生活で、唯一の収入先が消えた。
どうすればいいんだ。
外からサイレンの音が聞こえ、目を覚ます。
ぼんやりと外を見やると、カーテンの隙間からはすっかりと日が落ちていた。
スマホで時刻を確認する。
夜の20時。
少し寝ていたようだ。
ゆっくりと体を起こす。テーブルの上に置いてある少しだけ入った炭酸飲料を手に取り飲んだ。
すっかり炭酸は抜け生ぬるい。
ふと下に目をやると封筒が落ちていた。
夢じゃない。俺は、クビになったんだ。
今思い出しても腹が立つ。
俺が悪いのか?俺だけが?ふざけてる。
明日からどうやって過ごそうか。もう、生きている価値なんてこの世には‥。
ピコン、とスマホから音がした。
アコちゃんのインスタに新たな投稿を知らせる通知だった。
すぐに開くと、1枚の画像が飛び込んできた。
黒いツインテールがソファに垂れ下がって、ニットのワンピースでくつろぐ写真だ。
『今日はオフ!甘いもの食べたいなー』とゆるいキャプションが添えられてる。
華奢な肩にニットがゆるくかかって、柔らかく浮かんでる胸に目が行く。
コメント欄には『アコちゃん可愛い!』『「癒される!』といつも見る熱心なファンの声が溢れてて、俺も「最高です」って呟きながら「いいね」を押した。
コメントの下には『明日の握手会、楽しみにしてる!』とあった。
「あ‥。明日、握手会だ」
無意識に声が出て、大きなポスターを見た。
そんな大切なことを先程まで忘れていた。
アコちゃんの画像には、『来てくれる人、宜しくねー!』とコメントが添えられていた。
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