10 新たな決意
### 1. アパートの一室
ずんだはベッドに座り、呆然としていた。手には退学処分通知書が握られている。これまでの人生で最悪の出来事だった。
「茜ちゃんは市長になって……私は……」
彼女の目に青い涙が浮かんだ。だが、すぐに拭った。今は弱音を吐いている場合ではない。なによりも心が重いのは、大学をやめることになったと母に連絡することだった。
ずんだは深呼吸をし、通信デバイスを取り出した。意を決して母に通話する。
呼び出し音が4ループ流れる。母が通話に出た。
「ママ、あのね……」
ずんだは状況を説明した。電話の向こうで母親が絶句し、そして悲しみの声が聞こえた。母もまたアンドロイドであり、娘の苦しみを痛いほど理解していた。
通話を終えたずんだは、窓の外を見つめた。東京の夜景が広がっている。どこかで新たな危機が芽生えているかもしれない。そしてどこかで、アンドロイドに対する偏見が続いているかもしれない。
アパートのドアをノックする音が聞こえた。
「どなたですか?」
「石川です」
ドアを開けると、石川が立っていた。
「茜様から言付かっています」石川は静かに言った。「あなたが望むなら、いつでも市長官邸で働けるように手配すると」
ずんだは首を横に振った。「ありがとう。でも、辞退するよ」
「どういうことですか?」石川が尋ねた。
「茜ちゃんには政治の世界がある。でも私には…」ずんだは窓の外を見た。「私には違う戦い方があるの」
「どんな戦い方ですか?」
「キラーコンテンツ」ずんだは決意を固めた表情で言った。「そこで私は戦う。そして、茜ちゃんが政治で守れない人々を守るの。アンドロイドの可能性を世界に示すの」
石川は頷いた。「わかりました」石川は頷いた。「それならば、私も力になります」
「どういうこと?」
「琴葉家の私設警護チームとして、私にはある程度の自由があります」石川は説明した。「茜様の意向を汲んで、あなたをサポートします」
「でも、それは…」
「茜様の直接の指示ではありません」石川が微笑んだ。「私の判断です。私は琴葉前市長の下で、アンドロイドと人間の協力の大切さを学びました」
ずんだは感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。「ありがとう…」
### 2. 懲悪省、野中の部屋
ずんだは懲悪省を訪れていた。朝方のまだ人気が少ない時間帯。おそらくずんだは一睡もできなかったのだろう、ひどくやつれている。彼女は扉をノックした。
「野中さん、ずんだです」
「どうぞ」野中は軽快に応じた。
ドアが開き、ずんだが部屋に入った。ノートパソコンを2台開き、ヘッドマウントディスプレイを首にかけた野中が控えめな笑顔でずんだを迎えた。
「それで、どうしたよ」野中は座るように手で示した。
ずんだは静かに椅子に腰掛け、真っ直ぐに野中を見つめた。
「英雄になりたいです。キラーコンテンツで、私を指導してくださいませんか」
野中はずんだをじっと見つめた。彼の眼差しは深く、まるで彼女の魂を見透かしているようだった。
「大学をやめたそうだね」
「はい。もう戻れません」
「市長の補佐官になる道もあったのに」
「茜ちゃんには迷惑をかけたくありません」ずんだはきっぱりと言った。「市長には市長の戦いがある。私には私の戦い方がある」
野中はしばらく黙っていたが、やがて満足そうに頷いた。
「わかった。ではキラーコンテンツで英雄を目指すか」野中は手を組み、前のめりになった。「だが、それは容易な道ではない。特にアンドロイドにとっては」
「覚悟はできています」
「本当かね?」野中の声が冷たくなった。「キラーコンテンツの世界は血と暴力に満ちている。アンドロイドであるあなたは、人間以上に厳しい目で見られるだろう。一度入ったら、もう戻れない」
「戻るところはありません」ずんだは静かに、しかし強く言った。
野中は彼女の決意を見て取り、満足そうに微笑んだ。「よし。では説明しよう」
彼はシンプルな図を描いて説明した。「私たちが懸念しているのは、ガヴリロの背後にある勢力だ。彼は独自の思想を持ってはいたが、彼に資金と人脈を与えていた者たちがいる」
「反アンドロイド派ですか?」
「そう、だがそれだけではない」野中は首を横に振った。「彼らにとって反アンドロイド主義は単なる道具だ。本当の目的は混乱と分断を生み出し、そこから利益を得ることだ」
ずんだは真剣に図を見つめた。
「彼らはキラーコンテンツも利用している。君はその世界で戦うことで、彼らの計画に直接対抗できる。君という存在そのものが、彼らの描く分断された社会像への反証になる」
「僕にできることならなんでも」
野中はずんだを見て頷いた。「これからの道は険しい。だが、君なら乗り越えられる」
野中はずんだを見て頷いた。「三つの力だ。表の力である茜市長、影の力である我々懲悪省、そして…」
「キラーコンテンツの新たなスター、ずんだ」野中は静かに言った。「アンドロイドと人間を繋ぐ架け橋として、君は大きな役割を担うことになる」
ずんだの顔は疲れていたが、目だけが鋭く光っていた。彼女は少し笑った。
「始めましょう」
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