第9話 決戦

ワーッと歓声が大きくなった。風魔法で開会の挨拶の声が広がる。

ベラドンナも急いで闘技場に入って行った。


「ケイト様〜!!」

「素敵〜!!」


剣術大会が始まってみると、ケイトの人気が凄かった。

いつもだと無造作に後ろに結んでいるだけの髪を、ポニーテールにしていて

きっちりと着込んだ騎士服が凛々しい。

そして強いのは勿論、自信に溢れたオーラを纏っている。

寮の自室で布団をかぶっていたケイトとはまるで違うのだ。


「天下無双令嬢」と噂には聞いていたが、剣術の授業は直接みたことはなかった。

なるほど、「天下無双令嬢」と呼ばれるだけはあると納得する。


「ケイト様〜!!カッコいい〜!!」


ケイトが準決勝で勝利を決めた瞬間、コニーも黄色い歓声をあげた。

コニーの声が掻き消されるほど周囲の歓声も凄い。


ダフネル伯爵令息も人気だ。そして順当に勝ち残っている。どうやら、決勝で二人が対決することが期待されている様子だ。

ダフネル伯爵令息に歓声をあげている人の中に、例のダフネル伯爵令息の恋人がいるのだろう。


とうとうダフネル伯爵令息も準決勝の対戦で勝利して、決勝でケイトとの対戦が決まった。


先ほどまでケイトに黄色い歓声をあげていたコニーが少し緊張した面持ちになった。

そして心配を共有するようにベラドンナのことを見た。


「……ケイト様、大丈夫なのかしら。」


「なんとかなりそうと言っていたし、それにケイトに不安そうな様子は見えないわ。」

「そうよね……。」


コニーの心配そうな様子を他所に、会場は大きく盛り上がっていた。


決勝が始まる前に、闘技場のグラウンドで両者が向き合って立っている。


ダフネル伯爵令息は、仁王立ちでケイトを睨みつけている。


審判が中央にやってくる前に、ダフネル伯爵令息がケイトを指差して言った。


「貴様には負けない!俺が勝つ!」

「……全力を出させていただく。」


猛り立っている様子のダフネル伯爵令息に比べて、ケイトは凪いだような様子でよく通る声で言い、胸に手を置いて騎士のお辞儀をした。


「ふん!」


ダフネル伯爵令息は、昂った様子のまま形式的にお辞儀をした。


「始め!」


審判の開始の声と共に前に出たのは、ダフネル伯爵令息だった。

ダフネル伯爵令息が振り下ろした剣をケイトが受け流した、というところまでは分かった。

しかし、それ以降の展開は目で追いきれないうちに、ダフネル伯爵令息の剣が飛ばされていてダフネル伯爵令息は膝をついていた。


審判が旗をあげてケイトの勝利を告げると、会場が大きな歓声に包まれた。


「おい!」


ダフネル伯爵令息は少しよろけながら立ち上がると、ケイトを指差して怒鳴った。


「わ、分かっているんだろうな!?」

「ああ、分かっているさ。」

「それじゃあ……「おめでとうございます!!」。」


ダフネル伯爵令息が何か言おうとした時、明るい声で祝いの言葉を述べながら少年が割って入った。

手には大きな花束を持っている。

ラッセル・ダフネル伯爵令息の弟だ。


「ケイト様、優勝おめでとうございます!あ、ラッセル兄上も準優勝おめでとうございます!」

「テ、テオドール…?どうして……。」

「最初にお祝いを言いたくて!来ちゃいました!表彰式では、父上が祝辞を述べるって言うしぃ。」

「ち、父上が……?」


ダフネル伯爵令息がギョッとした様子になった。


どうやらダフネル騎士団長が剣術大会を観戦するのは想定外だったようだ。

この様子だと、この場で婚約破棄の宣言をすることはなさそうな感じだ。

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