第6話 後出し報告

「うん。ラッセル・ダフネルは何時も怒ったみたいな顔をしてる。」

「……現状に不満はあるという事ですわね……。」


剣術で勝てない相手を好きになれないのかもしれない。しかし、器が小さくないか?とベラドンナは思ったが、そこまでは言うのを控えた。

コニーが薬草茶に蜂蜜を垂らし入れて、スプーンでかき混ぜ、一口飲んで顔を上げた。


「もしも……、ケイト様が剣術大会で負けて……、

あっ!わざととかではなく、たまたま調子を崩したとか色々あったとしてですよ?

ダフネル伯爵令息が勝ったら、そのまま結婚されるの?上手くいきそう?」

「……野営で同じ班で活動した時は特に問題なかったが。」

「野営の班での活動なんて、結婚しなくてもできることよ?」


ケイトは結婚後の生活については全く実感は湧かないらしい。

政略結婚に愛がないのは珍しいことではないし、家同士の繋がりができるというメリットができてケイト自身が王宮騎士団で活躍することを阻害したり

関係が険悪でなければ良いというくらいに考えていた。

ケイト自身は貴族令嬢らしい雰囲気は全くと言って良いほどないけれど、結婚に関しては貴族的な考え方ではある。


「……でも……、その……、あ、後継ぎのこともあるでしょう?」

言いにくそうにコニーが言う。令嬢が口にするのはちょっと躊躇する話題だ。


「それはわからない。活躍次第だし。」

「活躍次第!?」


想像した答えとは方向が違う言葉が返ってきたのでコニーは目を丸くした。

少し大きな声で聞き返してしまったコニーの様子を気にする素振りもなくケイトは言った。


「ダフネル伯爵家では、子息の中で一番功績を上げたものが後継ぎとなるらしい。

 伯爵の引退時期にもよるらしいし、条件はよく知らないけど。」

「第一子が継ぐのではないのね。」

「そうらしい。そもそもラッセル・ダフネルは三男だし。」

「まあ……。」


後継ぎの話から、意外な情報が出てきた。功績と聞いて、ベラドンナは考えた。


「後継ぎの功績の条件は知らないと言うことだけど、もしかして剣術大会の成績も考慮されるのかしら。」

「どうだろう。あるかもしれないね。」

「後継者ポイントに影響するから、何がなんでも優勝したいのかしらね。」


ラッセル・ダフネル伯爵令息は、後継者レースの事で頭がいっぱいで

婚約破棄を突きつける事由については実はまだ考えていないのかもしれない。


それは理解したとしても、自分が優勝する為に相手が動揺するような事を言うのはどうなのだろう。


「……それじゃあ、ダフネル伯爵令息は本気で婚約解消をしたいと言うわけではないのかしら。」

「婚約破棄でなくても解消はしたいのかもしれない。」

「気が合わないから、とか?」

「恋人がいるみたいだから。」

「っ………後出し……。」


ケイトの言葉に思わす薬草茶を吹き出しそうになってしまった。コニーも同様だったのか口元をハンカチで抑えている。


「ダフネル伯爵令息に恋人がいるってこと?」


聞き間違いかもしれないので、念の為聞き返すとケイトはコクンと頷いた。


「騎士団の訓練場にいつも差し入れを持ってきてる。」


ケイトやダフネル伯爵令息など剣術の腕が認められている生徒は、学生のうちから王宮騎士団の訓練場で、現役の棋士と一緒に訓練を受けている。

王宮騎士団の訓練場には一部、訓練を公開している場所があるそうなのだが

その時にその令嬢は毎回差し入れを持ってきているのだそうだ。


公開訓練を行う場所は決まっているが日時は決まってはいないし、どこかに公示されているわけでもない。

それなのに毎回、見学に来て差し入れまで持ってくるというのは

誰かが伝えているということなので、おそらくダフネル伯爵令息がその令嬢に日程を教えているのだろうとケイトは考えているのだそうだ。

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