第2話 事情聴取

「そう言えば、卒業パーティの準備ってされています?」

「ドレスは注文しましたわ。早くしないと良い素材が品切れになるって聞きましたから。

 ベラドンナ様のドレスはバーベナ子爵令息さまから贈られるのかしら。」

「ええ、仕立て屋に依頼をしてくださって、一緒に生地を選びに行きましたわ。」

「まあ!一緒に生地から選ぶなんて素敵ですわ。」

「ふふ……。サプライズの様にドレスを贈るのとどちらが良いかって訊かれたのです。訊く時点で既にサプライズではないのですけど……。好みの生地やデザインを選べたのでよかったですわ。」

「良いですわねぇ。私は髪飾りとネックレスを贈ってくださると言うことだったのでドレスは自分で注文しました。」

「それも素敵ではなくて?」

「うふふ……。」


コニーは少し照れたように口元を緩めた。

幸せそうで何よりだと見つめていると、ゴクンと何かを飲み込むような微かな音がした後「はあ〜。」と溜息が聞こえてきた。


見やると、ケイトは大きな体を縮こませるように背中を丸めて俯いていた。

「ケイト、溜息なんてついて……。そろそろ何があったか話してくれません?」


「……婚約破棄……、されるかも……。」

「「え?」」


ベラドンナとコニーは驚いて、声が合わさってしまった。思わず顔を見合わせた。

ベラドンナがケイトに何て声掛けすべきか考えていた時に、コニーは口を開いていた。


「ケイト様。婚約されていたんですか?」

「……。」


ベラドンナもその考えは脳裏に過ったが、友人なのに関心がなかったと言っているような気がして言わない方が良いんじゃないかなどと考えていた。その矢先に、コニーが言ってしまった。


「……ラッセル・ダフネル……。」


ケイトは、その部分は気にしなかったのかボソリと婚約者らしき人物の名前を口にした。


「騎士団長子息ではないですか!」


ケイトが言った人物の家名は有名だった。王宮騎士団の中でも第一とされる金獅子騎士団の騎士団長の家名だ。ケイトの婚約者であるラッセル・ダフネルは騎士団長子息ということだ。


「凄い!ケイト様にぴったりの嫁ぎ先ではないでしょうか。」


コニーは両掌を顔の前で合わせて、目を輝かせた。

ケイトは、「天下無双令嬢」と呼ばれる程の剣術の腕前だ。

騎士団長の家系に入るにはぴったりだと考えたのだ。


ベラドンナもその考えには異論はないのだが、ケイトのその前の台詞を思い出していた。


「その騎士団長子息に婚約破棄をされるということなのですか?一体どうして?」


ベラドンナの問いかけに、コニーはハッとした。


「そ、そうおっしゃってましたね。何があったのです?」


コニーが身を乗り出して、ケイトに詰め寄った。

ケイトは苦い顔をして、焼き菓子を口に放り込んだ。


コポコポコポと湯が沸騰する音がする。ベラドンナは、魔道具の下部のレバーを引いて火を消した。

ポットには既に、ブレンドした薬草を入れてある。

沸いた湯をポットに注いで、二杯目の薬草茶を淹れながらベラドンナは言った。


「……言いにくいなら文字にして書いてくださっても良いですわよ。」

「ああ!そうですわね!」

「んん……。」


ケイトが再び焼き菓子を口に含んでしまったので、会話が途切れてしまったのだ。

口に食べ物を含んだまましゃべるのはマナー違反であるし、聞き取りにくい。

ケイトもそれが分かっていながら、焼き菓子を口に入れたのだ。しゃべるのが気が進まないのだろう。


ベラドンナもコニーもケイトがどうしても喋りたくないというなら、無理に聞く気は無いのだが

何となくケイトからは、「理解してもらいたい。」という雰囲気を感じていた。


構って欲しいのか、と若干のイラつきを覚えたが、外ではそう言った弱い部分は見せないケイトなので友人としては話しくらい聞いてあげるつもりだ。

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