ボロアパートのお隣には、学校の王女様が住んでいました。
ましろ
学校の王女様
無くしたものを取り戻すのに、一体どれだけの時間がかかるのだろう。
それは決して、1人では見つけられないのかもしれない。1人でないと見つけられないのかもしれない。
ただ、それを探すことを、面倒だなと思いながら、悪くないなと微笑んでしまう自分が、確かにいたのだ。
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4月。先週から高校2年生になった俺、川端空は、教室の1番左列。後ろから2番目という席で、眠気と格闘していた。
体育の後の国語ってなんでこんなに眠いんだろうか。まずい。ノートに書いてある字が下手なダンス踊ってるミミズにしかみえない。
流石に少し眠気を覚まそうと姿勢を正し、ぐるりと教室を見渡す。そこには、もう知るかと諦めを決め込んで爆睡するもの。眠気なんかより隣の席のやつとの絵しりとりを楽しむもの。背筋をピンと張り、真っ直ぐ黒板を見つめるものなど、様々。
背筋を張り、黒板を見つめ、時々挟まれる教師のジョークにクスリと笑うのは、隣の席。
腰まで届くほどの銀髪に、若干青みがかった瞳、スラリとした手足で入学早々から学校一の有名人であった、
曰く、スポーツ万能。曰く、成績は学年2位。曰く、深窓の令嬢。曰く、どこかの国のお姫様。誰かの悪口など言ったこともなく、礼儀正しく、人当たりもいい。
そんな東条に見とれていると、四限終了のチャイム。昼休みだ。皆思い思いの席に移動し、飯を食う。
俺はと言うと、昼休みはいつも、固定の3人で飯を食っていた。
「飯食おーぜー」
高校1年からクラスメイトの山本、中田が飯を持ってくる。
「おーう、また購買?」
「うむ。一限と二限の間にダッシュで買ってきた」
「いいなぁ、ちょっとくれよ」
「やだね」
山本と中田は、いつもの通り購買で弁当を買ってきたらしい。
俺の懐事情にそんな余裕はなく、朝早起きして作ってきた手製の弁当を食べる。
「にしても、あれはまだ落ち着かないものだな」
弁当の唐揚げを頬張りながら、くいと顎をしゃくる中田が見るのは、先程俺が見た東条。
昼休みの度に信者に呼び出され、クラスの中心で弁当を広げる彼女は入学から1年経つ今でも、女子、男子問わず囲まれている。
というか最早、東条を中心地として生態系が生まれていると言っても過言では無い。
東条の周りにはいくつかの島が存在し、それぞれが独立したグループながらも、東条を共有の存在として認識することで、本来絡むことの無いカースト1位と2位のグループが隣同士に居たりするのだ。
「やっぱおっぱいでかいし、銀髪だし、常に敬語だし。まさに王女って感じじゃね!?
あの人実際にどっかの国の王女殿下って噂もあるんだぜ!あぁ、俺もワンチャンねえかなぁ」
弁当のそぼろを口パンパンに掻き込み、唾を飛ばしながらテンション高めに山本が言う。きったねぇな。
「まあ、実際あんなのがクラスにいたらそりゃ騒ぎ立てるわなぁ。実際、あのイケメンめちゃくちゃ頑張ってんじゃん。あれでまだ付き合ってないのかね」
「あー、竜崎。あんなさぁ、顔がかっこよくて背も高くてハンドボールで全国行ったやつに勝てるわけねんだよな。神様ぁ...貴方なぜ彼にばかりお与えになる!?俺には何も無いというのに...!」
クラスの物理的中心にいる彼女の隣を陣取るのは、クラスの精神的中心、
「まぁ、俺らには関係ねぇ話だな。」
ちゃっちゃと食って、さっき集中出来なかった授業の復習をしよう。
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放課後。夕食の買出しをしようと学校からチャリでスーパーに向かう途中のこと。
「やっべ...。財布忘れた」
今から取りに戻るとなると、学校に着くのは18時半。クラスメイトは部活動生を除いて全員下校しているだろうし、部活動生も部活中だろう。
学校に着くと、まだ日の入りが早く、若干暗くなった校庭ではやはり運動部が活動しており、体育館からはボールの跳ねる音、学校のそこら中から楽器の音が聞こえる。
今頃は入部したての1年生が、それぞれ部活に精を出している頃だろう。
教室の鍵を取りに職員室に向かう。
「あれ...ない」
職員室に鍵がないということは、まだ開いてるのか。それか鍵を掛け忘れたかだが、この時間に不用心な事だ。
教室に行ってみるか。
4月の夕方は春だと言うのに肌寒い。薄暗くなったA棟とB棟を繋ぐ廊下には吹奏楽部が陣取っており、校舎内には人っ子一人見当たらない。
吹奏楽部の出す音は何故か不快にはならず、寧ろ放課後独特の雰囲気を作るのに一役買っていた。
いつもの歩き慣れた廊下を通り、2ーBを目指す。A組の前を通り掛かったところで、教室から声が聞こえた。
「──れた。なんであんなに絡んでくるの?大体私はひとりが好きだし、そもそも私から話したことなんて1度もないのに、なにをそんなに盛り上がれるの!?あと、普通に竜崎くんが怖いよぉ。いつの間にか下の名前で呼んでるし、なんか体触ってくるし。この前なんて、頭触ってきたんですけど!この前髪作るのにどんだけ苦労するかわかってる!?」
話し声?誰かと電話でもしてんのか?
──その日のことを、俺はいつか思い出して笑うだろう。
好奇心に勝てなかった。いや。ここは絶対に負けてはならなかったのだ。
「ていうか王女ってなによ!そりゃパパはロシアの人だけど、私は普通に一般家庭出身ですけど!奨学金貰うためには学校生活だって成績だって、手を抜けないだけじゃない!ほんとは真面目じゃないし、敬語なんて意味わかんない!はぁ、キャラ付け失敗し──」
コロコロと変わる表情、大きな身振り手振りを誰もいない教室で披露する学校中の注目の的。
学校の王女たる深冬・ミハイロヴナ・東条と、ばっちりと目が合ってしまったのだから。
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