短編の詰め合わせ
佐久間 ユマ
【短編】一匹狼、パピーと買い出しへ
「......エリアC、壊滅の完了を報告します。」
俺の名前はビリーク、この世の中に存在している悪という悪を潰していく仕事をしている。
ヒーローってほどキラキラしているわけではないが、もしヒーローと呼んでくれるなら笑顔で対応しよう。
「お疲れさまだ。」
背中を向け、窓の外をみているこの女性はこのチームのボスを受け持っているレナさん。
ある日、俺を救ってくれた命の恩人である。
「どうだ、最近の活動は。」
「......仲間ならいらないですよ。」
この入りは一人で行動する俺にたいして新たな仲間を紹介する流れだ。
もう何回も断っているのにも関わらず、レナさんは次から次に候補を持ってくる。
「一人での行動、限界がきてるんじゃないか。」
「だから、俺に仲間は要らないんですよ。」
俺は過去に能力不足で仲間を亡くした経験がある。
恥ずかしい話だがそれが今でもトラウマであり、はっきり言えば仲間を作ることから逃げている。
「お前はそうやって私が必死作った人の一覧をいつも流し見でみて、要らないの一言で終わらせる。」
「まあ、正直一人の方が動きやすいというか......ってかなんでずっと背中向けてんすか。」
俺がレナさんにそう言うと、レナさんは椅子をぐるりと回転させてこちらを向いた。
「今日はお前に新たな相棒を用意した。」
「相棒......って今膝の上に乗ってるその子ですか?」
「あぁ、ヤーちゃんだ。」
マジか。
ボケで言ったのに本当にその可愛らしい女の子と組ませる気なのかこの人は。
女の子は膝からスッと降りて俺のとなりに立つ。
「え......こんなガキンチョと組ませるんすか?」
「......あ?今ガキンチョっつった?」
まずい、レナさんを怒らしてしまった。
椅子を立ち、ものすごい眉間にシワを寄せたままほぼゼロ距離まで近づいてきたレナさんの気迫に尻餅をつく。
「ご、ごめんなさい。」
「謝るなら私じゃなくてヤーちゃんに謝りなさい。」
「ご、ごめんねヤーちゃん。」
「なにお前ヤーちゃんのことあだ名で呼んでんだ?」
その怒りのトラップは避けられないよさすがに。
再度ついてしまった尻餅を恥ずかしがりながら俺は立ち上がり、ヤーちゃんに頭を下げた。
「この子はヤヨイ、ワタシの姪っ子よ。」
「姪っ子......って姪っ子がなんでこんなところに。」
「まあバイト的な感じ?」
「バイトって......ヤヨイさんはいくつなんですか。」
「......18。」
おっと驚いた、てっきり中学生前半だと思っていたが、人は見た目で判断するもんじゃないな。
「え、ヤヨイさんとエリアの壊滅をするんですか?」
「いや、そんな危ないことヤーちゃんにさせるわけないだろ。」
「わかんないですってマジで。なんで俺とこの子を組ませたいんすか。」
こちらとレナさん、喋っている方へ静かに礼儀正しく目線を行ったり来たりさせているヤヨイさんの横で話を聞く。
「そもそも単独行動というのは特別な待遇な訳で、本来はコンビかトリオを組まないといけないわけだ。」
「まあ、そうですけども......。」
これはごもっともな意見だ。
「他のコンビ達は自分の事で精一杯だし、じゃあもうお前でしょって感じで。」
「......理解は出来ますけども納得は出来ないっす。」
「あとあんまりこれ以上特別待遇続けるとめっちゃ文句言われるんだよ他の奴らに。」
「そうですか......。」
「ワタシの願いだ、契約してくれ。」
そう言うとレナさんは頭を下げた。
そこまでされたら断れない。
俺はレナさんには一生ついていこうと決めている。
「わかりました、サインしますよ。」
「本当か!?よかったなヤーちゃん。」
俺はニコニコでヤヨイさんと喜んでいるボスを背に、契約書をパパッと書いた。
「よし、契約したなー?」
「はい......って、ちょっとなんすかその感じ。」
なにかおかしい。
"かかったな?"みたいな顔をしている。
「コンビの成立ということで、これから全仕事の給料が折半になります。」
「......え、ちょっとちょっと待ってください!」
すごいこと言ってる。
「エリア壊滅の仕事はやらないですよね?」
「うん。」
「他の仕事の手伝いとかですか?」
「ううん。」
「えー......えーっと、彼女はなにをするんですか?」
「まあなんか......怪我したりとか、汚れたりとか、失敗したりとか、そういうのがない仕事。」
「ないですよそんな仕事!」
レナさんを信じすぎて契約書を見ずにサインをしたせいで、なんかヨーちゃんの不労所得が確定した。
「え、じゃあコイツ本当に仕事無しですか。」
「......え、またコイツとか言ったお前。」
「あぁマジすいません。」
その一瞬でゼロ距離まで来る技本当にやめて欲しいんですけども。
絶対避けられないし絶対尻餅つくから恥ずかしい。
「ヤヨイさんの仕事はなんなんですか。」
「ヤーちゃんにはな、パンケーキをつくってもらいたい。」
「......え?」
「夢だったんだ......姪っ子の料理食べんの。」
「仕事にしないでくださいそんなこと!!」
えげつない権限を発動している。
「今から姪っ子のパンケーキ作りを俺が手伝うってことですか?」
「あぁ、とりあえず今日の仕事はこれが最後だ。」
これが最後って......エリアCの壊滅が完了したらそのまま今日の仕事終わりのはずだったのに。
唐突な残業ですよこれ。
「あぁひとつ、絶対手は出すなよ。」
「......いやわかってますよ、そもそも俺は年上の方が好みなので。」
「あぁ、そういうことじゃなくて。」
「......え、暴力みたいなことですか?しませんよ。」
「いやそうじゃなくて。」
「え、なんですかじゃあ。」
「純粋な姪っ子のパンケーキが食べたいから、お前は後ろで見てるだけにしろ。」
「マジでなんで組ませたんすか!!」
そんなこんなで俺たち三人はボスの部屋をでて料理部屋へ行く。
唐突にやってきたボスに頭を深く下げコックさんに軽く挨拶を返したレナさんは止まること無く棚と冷蔵庫を一通り見る。
「......あ、あわわわわ。」
「レナさん!?どうしたんですか!?」
レナさんは膝から崩れ落ちて顎をがくがくさせながら魂が抜け出しそうな声で呟く。
「ホットケーキミックス......ホイップ......無い。」
「いや......もう解散ですよこれ普通に。」
「なんでないんだ!ホットケーキミックス!」
「いやコックさん攻めないでください普通に。」
レナさんは半泣きになりながらこちらに振り向き、すがるような感じで腰へ抱きついてきた。
「ホットケーキミックス......買ってきてぇ......。」
「俺ここまで威厳ないレナさん見たくないっすよ。」
まあでもこんな頼まれ方だろうがレナさんの頼みは断れない。
ボスはもはや武器としても扱えそうなみたいなくらいにパンッパンの財布をスッと手渡してきた。
「じゃ、よろしく買い出し。」
「はい......ヤヨイさん、いこうか。」
「いやいやいやちょっと待て!!!」
二人で料理部屋を出ようとしたとき後ろからレナさんは崩れ落ちた姿勢を立て直しもうスピードで追っかけてきた。
「なんでヤーちゃん連れてくの?」
「え、いやその......チームなので。」
「いや、一人で行けよ普通に。」
いや買い出しまで一人になったらとうとうなんで組んでるか分からない。
「ねえレナお姉ちゃん、ワタシも行くよ。」
「え?」
「え?」
久々に口を開いたと思ったら、完全にこっち有利になること言い始めた。ナイスすぎる。
「ワタシ、もう18だし買い物行けます!」
「ええぇ......本当に大丈夫なのかい?」
「なんでおばあちゃんみたいな言い方なんですか。」
聞いたことないものすごい甘い声で、ボスはヤヨイさんの腰に抱きつく。
「本当に、やれるのかい?」
「うん、それにチームになるなら、おじさんとも仲良くならないといけませんから!」
「え、俺23なんですけど。」
学生特有のストレートな容姿判断が口に出た。
まあ、おれも中学生だと思っていたからお互い様か。
「おい、絶対ヤーちゃんに傷ひとつつけるなよ?」
「......は、はい。」
「釜茹でだからな、傷つけたら......。」
「重すぎますって。」
呪われそうなテンションでこちらの方へ向くボス。
いつも冷静で、たまに笑顔を見せるくらいだったがここまで感情の起伏が激しい人だったとは......。
「お姉ちゃん、釜茹ではやめてあげて。」
「いや、そもそもアンタのせいで......いや、アンタとか言うとまた尻餅つく羽目になるからもういい!いこう!」
僕らは工場地帯の中にある工場に並ぶくらい大きな土地の事務所を飛び出て、近くのスーパーへ向かうことに。
「はぁ、壊滅作戦より疲れたよ。」
「ごめんなさい......お姉ちゃんが。」
「あぁいや、あの人には死ぬほど恩があるからあのくらいの扱いはどうってことねえけども。」
それにしてもものすごい緊張と緩和だった。
その影響からかものすごくお腹が痛い。
「おじ......お兄さん、大丈夫?」
「あぁ、ちょっとトイレ行きたくなってるだけだ。」
「いいよ、行ってきても。」
いやいや、俺がここで行ったらその間にアンタが怖い人に捕まるみたいなよくある展開が目に見える。
特にここら辺は工場地帯なのでこの時間帯の仕事で人通りは少なく、工場内の音も大きいためなにか事故が発生しても中々気づかれにくい場所である。
「大丈夫、とりあえずスーパーまでは......」
「ねえ、子供扱いしすぎだよみんな。」
「......え?」
「確かにまだ二人と比べて幼いし、力もないけどもう18なんだよ?」
「まぁ......それもそうか。」
「大丈夫、変な人来ても断れるくらい出来るから。」
「そうか......じゃあわりい、すぐ戻ってくる。」
俺は橋を渡った先にある荒廃した小さな公園のトイレで用を足す。
そうだ、レナさんが過保護なだけであって18歳って高校三年生だし結構大人か。
少子高齢化の今における成人でもあるしな。
俺もレナさんにつられて少し甘く接しすぎてしまっていた。
「.ふぅ、戻ったぞって......えっ!?」
「お兄ちゃんごめん!普通に捕まった!」
「おい普通に捕まってんじゃねえかよ!」
若い男二人組がヤヨイさんの手を掴んでおり、俺に気がつくやいなや急いで逃げようとしていたので全力で追い抜き目の前にバッと立つ。
暴力は振るわない。
こういう場所で悪い話題を作ってしまうのは事務所としても良くないからだ。
「ちょっと......返してくれないか?」
「はっや......いや、無理だよオッサン。」
「え、俺そんな老けてるかなぁ!?」
ショックを受けるが、そんなんで今落ち込んでいる場合じゃない。後でしっかり落ち込めば良い。
「早く返してくれ、頼む。」
「無理、気に入っちゃったからこの子。」
「返してくれないとマズいんだ。」
「何がマズイんだよ」
「返してくれねえと......釜茹でにされるんだよ。」
「え、釜茹で?釜茹でってあの?」
「そう、その釜茹で。」
若者二人は目を合わせると冗談きついぜと良いながら爆笑した。
「釜茹でって......やっぱオジサンユーモアじゃん。」
「違う!オジサンユーモアじゃない!」
「オジモアやめろよオッサン!」
「なんだオジモアって!マジで返してくれ!」
笑ってる彼らにゆっくり一歩ずつ近づく
「おい近づくな、彼女が傷つくぜ。」
「......わかった、近づかないから交渉だ......ひとつ交渉をしよう。」
「なんだ、一応聞いてやるよ。」
「......えー、ちょっと頼む、普通に返してくれ。」
「なんか思い付いてから言えやジジイ!」
二人のうちの一人が足を一歩踏み出して大きく左のストレートを振りかぶってきた。
俺はそれを顔面で受けながら倒れないようにぐっとこらえて構える。
「おお、良く俺のストレートを耐えたな。」
「俺を殴るのはいいが、彼女を傷つけるのはやめてくれ。」
「きめえんだよテメェ!」
今度は右フック、とにかくやり返さないようにと必死に耐えぬく。
「オッサン、相当傷つけられたくなさそうだな。」
「あぁ、釜茹では困るからな。」
「......これは傷つく判定にはいるのかな?」
「......お、おい!やめろ!」
男は彼女の方向に唇を尖らせ、キスをしようとする。
俺はとっさの判断で殴ってくる男から距離を取り、ポケットから財布を取り出すと、キスが成立する寸前男のこめかみにめがけてぶん投げた。
「いってぇ!!」
無事キス不成立。
というか攻撃をしないはずだったのに。
というか本当に武器になるとは。
「......あ、やばい!」
財布を食らった男はヤヨイさんの手をつかんだまま共に後ろへ倒れ込みそうになる。
「うわあああああっ!」
俺はダッシュで急いで駆け、ヘットスライディングのような飛び込みで彼女を抱えると、そのまま半回転して地面に背中を叩きつけた。
「うぅ......あぶねぇまじで。」
「おいブラザー大丈夫か!!」
「......安心しろ、生きてると思う。」
俺は彼女を下ろし、砂を払い立ち上がる。
「テメェマジふざけんな!」
大きく振りかぶったストレート。
俺は男の懐にゼロ距離でスッと入り込むと、彼は驚きでそのまま尻餅をついた。
「逃げるぞ!ヤヨイさん!」
「は、はい!」
「このことは内緒にしててくれ!」
そんなこんなでスーパーに到着。
一瞬財布を拾うのを忘れてたことを思い出して顔が青ざめかけたが、ヤヨイさんがしっかり拾ってくれていたので青ざめはスカイブルーくらいですんだ。
買い物はあっという間にすませ、ボロボロの体で帰宅。
「ただいまー!」
「ただいま帰りました。」
「お疲れ様......エリア壊滅しに行ったのかお前。」
「いや、一回大コケしただけです。」
ヤヨイさんと俺はスッと目配せし、改めてあの事は内緒にする約束を結んだ。
「ヤーちゃんはケガ無くちぇ、大丈夫だっちゅ?」
「うん!大丈夫だったよ!」
「え、そこまで甘かったっすか?」
ボスは過保護に彼女の頭を撫で、文句ひとつ言わずニコニコして受け止める彼女により愛を増してさっきの男二人よりぐちゃぐちゃに愛す。
「じゃあ今からパンケーキ作って来てヤーちゃん!」
「えーっと改めて聞きますけども俺の仕事は......。」
「後ろでじっと見てろおまえは!」
「......はい、じゃあ料理場行こうか。」
「おいやっぱり待て。」
「え、なんすか。」
「なんかパンケーキ作るとこ見たいから私も行く!」
「なんなんだよもう!!二人が組めよ!」
無事一日を終えることが出来て良かったのと、次の給料明細を見てあまりの少なさに尻餅をつく俺だった。
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