男♂️だけどガールズバンドやる ~ボイチェンでVTuberしてたら男の娘好きの腐女子声優とバンドやることになった~

瀬谷酔鶉@男♂️だけどガールズバンドやる

上巻

Track 1: 音合わせなら音で語れ

♪1 底辺バ美肉VTuberと三人の女性声優

 俺はガールズバンドが好きだ。


 なぜかって? カッコいいからに決まってる。


 楽器を弾く女の子はカッコいい。

 特にエレキギターは最高だ。

 惚れ惚れする。


 できることなら、俺もガールズバンドに加入したい。


 そんなほのかな憧れを抱きながら、俺はギターを練習してきた。


 だけど残念なことに、男はガールズバンドに入れない。

 というか、男が入ったらガールズバンドではなくなってしまう。


 全く、人生ってヤツは皮肉なもんだな。


 とはいえ、それはしゃーない。

 当たり前のことだ。


 ――と、以前の俺は思っていた。


 風も冷たくなった11月、俺は乃木坂にある大手レコード会社の応接室の一つにいた。


 中央の大きなテーブルを囲んで、俺の左右に座るのは、10代後半から20代後半と思しき三人の女性声優たち。

 それぞれタイプの違う美人で、俺と違って「本物」の女性のはずだ。


 とはいえ俺は「美人」に騙されない。なぜなら俺はメイクを学んだからだ。


 そう、俺は今、女装してガールズバンドの顔合わせに来ていた。


 それもアマチュアバンドじゃない。


 大手レコード会社とアニメ制作会社とゲーム会社がプロデュースする、メジャーデビュー前提のバンドだ。


 左右の彼女たちは、そのために集められた楽器を弾ける女性声優のはずだった。


「どうもどうも」


 入り口から声がした。


 入ってきたのは、短い金髪で薄い色のサングラスをした中年男。ゲーム会社のプロデューサーだ。


 そこに黒髪ロン毛で年齢不詳の音楽プロデューサーが続く。


「「「おはようございます!」」」


 左右の女性たちが同時に立ち上がり、頭を下げた。俺も慌てて「ございます」の部分を合わせた。


 なぜこんな妙なことになってしまったのか?

 そもそもは気の迷いでバ美肉VTuberを始めたのが発端だった。


 バーチャル美少女受肉、略してバ美肉。

 男性が美少女のアバターを使って配信するVTuberを、そう呼ぶらしい。


 さらに言えば、「Live2D」をPCにインストールしたのが間違いの始まりだった。

 バンドアニメが好きで絵も描いていた俺は、これで自分が描いた絵を動かせる! と興奮し、気がつくと何日も大学をサボってVTuber用のアバターを作り上げていた。


「めっちゃ可愛い! これをみんなに見せたい!」


 そう思ったらもう止まらない。


 俺はバイト代をはたいてコンデンサーマイクを購入すると、ボイスチェンジャーをPCにインストールした。

 そして可愛い声を出すための特訓の日々が始まった。


「おはよう、先輩♪」

「お兄ちゃん、やめてよ~」

「また会ったな、少年!」


 真夜中の暗い部屋の中、俺はPCのモニターに向かってそんなセリフを夢中で練習した。


 端から見ればさぞかしキモかっただろう。

 けれど、ノイズキャンセリングヘッドフォンを通して聞こえるのは、ボイスチェンジャーを通した美少女ボイスだ。


 俺が身振り手振りを交えて話すと、画面の中の美少女は可愛らしい仕草で俺に微笑みかける。

 完璧だ……!

 この可愛さは世界に通用する……!


 完全にイカレていた俺は、そのままの勢いでYouTubeにチャンネルを開設し、ゲーム実況などを始めてしまった。


 そこからさらに紆余曲折もあったのだけれど、結果的に俺はメジャーデビュー予定のガールズバンドにスカウトされ、こうして顔合わせの場に来ている。


 プロデューサーやアニメの監督とは事前に会ってオーディションのようなこともしたのだけれど、メンバーが揃うのは今日が初めてだった。


「まあまあ、座って座って。最初だし、自己紹介とかする?」


 金髪のプロデューサーにそう振られ、俺は腰を下ろしつつ左右の様子をうかがった。


 俺の左の席は、短めの髪を明るい茶色に染めた大人っぽい美人だ。


 グレーのタートルネックの上にちゃ色のピッタリしたジャケットを着ているが、ジャケット越しにもなんというかその、立派なお胸をお持ちであられる。


 彼女の顔はどこかで見たような気がする。それなりに知られている声優のはずだ。


 反対側、俺の右隣は、女性というよりまだ少女と呼ぶ年代の印象で、黒髪をハーフツインに結び、襟元と袖口に黒いレースの付いた白いブラウスを着ている。

 くすんだピンクのスカートはハイウエストで、これはいわゆる地雷系ファッションというヤツではないだろうか?


 そのさらに右には、ふんわりしたセミロングの髪の、眼鏡をかけた女性。少し長身だが威圧感はなく、白いセーターからも柔らかな雰囲気を感じる。


 俺たちは一瞬、それぞれの出方をうかがい、結果的に一番年長らしい左の女性が口火を切った。


「それじゃ私から……」

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