財政難で英雄パーティー全員追放。代わりに才能ゼロの雑魚共で伝説パーティーを作った件
松本生花店
第1話 追放されるのは、てめえら金食い虫だ
「随分、遠くまで来させやがって」
コウスケは、事前に集めた資料と、考えた計画に目を通しながら、夜道をゆっくりと歩いた。
自身が住むヴィヒレア連合王国から、このエストレア王国までは船旅と陸路を合わせて丸二週間かかった。
遠いので来たくなかったが、ギャンブルや女遊びで作った借金返すには、この仕事を引き受けるしかなかった。
さらに細かい条件も色々とうるさかった。
その1つが、決して自身の正体がバレてはならないということだ。
バレたときの対策も考えて、依頼主から承認はもらえてたが、これを理由に契約した報酬を減額されるかもしれないなので、気をつけねばいけない。
だが、自分はそれなりに知名度がある人間なので、顔で正体がバレないように、目まで深く帽子をかぶり、無精髭を伸ばして顔の印象を変えてきた。
そうこうしているうちに、目的の場所が見えてきた。
◇
「ビッグスケルトンの討伐、お疲れ様! 今日はその慰労会だ! リリスもエレナも思いっきり楽しんでくれ!」
王国認定パーティー「栄光の牙」の剣士兼リーダーであるガーラントは、豪奢な宴会場の中央で高らかに声を上げた。
「私達の実力なら当然の結果よ! むしろ簡単すぎて退屈だったくらい!」
「これも聖女様のおぼし召しのおかげです。私たち、選ばれた者ですから!」
魔法使いのリリスと治癒師のエレナは、自信満々に頷きながらガーラントに応じた。
テーブルには豪華な料理と高級な酒が並び、脇には彼らの活躍を称えるために招かれた男女が、羨望の声をかけ始めた。
3人は酒と料理に舌鼓を打ちながら、異性たちの称賛に上機嫌に応じていく。
「栄光の牙は、王国の誇りですよ!」
「当然よ! 私たちは、エストレア王国史上最強の認定パーティーって言われてるんだから!」
エストレア王国では、国内外に国威を知らしめるために、数十年に一度、全冒険者パーティーの中から英雄の象徴となる「王国認定パーティー」を選出している。
認定パーティーに選ばれると、多額の報酬や特別な特権など様々な恩恵が与えられる。
そのため、同国の冒険者パーティーは、皆この栄誉を目指してしのぎを削っている。
中でも栄光の牙は、その圧倒的な実力と人気から歴代認定パーティーの中でも最強との呼び声が高かった。
「3人は元々、同じ村の幼馴染だったんですよね?」
「はい。私たちは皆、セイリオス村という小さな村で育ちました。そこで幼い頃より互いに切磋琢磨し、力を磨いてきたんです」
辺境の小さな村の若者達が、誰一人欠けること無く力を合わせて、認定パーティーの座を勝ち取った事も貴族、平民を問わず、栄光の牙が称賛を集めている理由の一つだった。
「おい、エレナ、3人じゃなくて4人だろ?」
「あ……すみません。忘れていました」
「ま、仕方がない事ではあるがな」
エレナとガーラントの会話に、招待された女性の1人が、首を傾げながら口を挟んだ。
「え? 栄光の牙は3人じゃなかったんですか?」
「ああ、そうだ。ほら、あそこにいるだろ。あいつも一応、俺たちの仲間だ」
視線を向けると、宴会場の隅で、小柄で童顔の男が気まずそうに座っていた。
彼の周囲には誰もおらず、ひとりで料理を黙々と口に運んでいる。
「アイツの名前はエリオ。俺たちと子供の頃から一緒に育った幼馴染さ。一応」
「全然役に立たないけどね。私たちはA級冒険者だけど、アイツだけC級止まりだし」
「私達の成長が凄すぎたのが原因なので、彼は悪くないと言えない事もないのですけれど……」
3人は互いに顔を見合わせた後、嘲笑し見下す視線をエリオに向ける。
それを見た女性は、不思議そうな表情で問いかけた。
「それなら、栄光の牙の名誉を守るためにも追放した方がいいんじゃない?」
「それは考えてないね。全く役に立たないとはいえ、一応、昔から一緒にいた仲間だからな」
「足を引っ張ってばかりだとはいえ、そんな非情なことをするのは聖女様の教えに反します」
「昔からどんくさい奴でさ。私たちが養ってあげないと、野垂れ死にしそうでしょ? キャハハ!」
初対面の人間を相手に3人は、いつものように自分を馬鹿にして盛り上がっているようだ。
聞きたくなくても、大きな声は会場中に響き渡り、耳に入ってくる。
エリオは皿の上の料理を淡々と口に運び続ける。
3人に追いつこうと必死に努力したこともあったが、いつしかその差を痛感し、今では何も感じなくなっていた。
栄光の牙を抜けることや、冒険者を辞めることも何度も考えた。
しかし、このまま終わることはできないと思う気持ちが、心の隅にはあった。
だが、3人を見返せるだけの実力をつける事は、現実的に無理だとも理解していた。
それに昔は良い奴らだったので、多少の情を感じている。
なので、少しでも役に立てればと思い、家事や雑務はエリオが一手に引き受けていた。
人が集まる場では、いつもこのように、嘲り笑われるのだが、活躍する仲間を引き立てる事も重要な役割だと自分に言い聞かせている。
勿論、悔しさや情けなさを感じないわけではない。
だから、そこから目を逸らすように、今は無心で料理を口に運び続けているのだ。
そんな中、不意に耳をつんざくような悲鳴が会場中に響く。
「うめえな、この酒」
皆の視線の先では、場違いな中年男がリラックスした様子で、テーブルの酒瓶を勝手に手に取って飲み始めていた。
中年男はくたびれた服装で、大きな帽子を深く被っている。帽子の隙間からは、無造作に伸びた髪がはみ出している。どう見ても、この場に来るような男ではない。
周囲は、中年男に目を奪われ、言葉を失っている。エリオも男をじっと見つめた。
「お前、美味そうなもん食ってるな。もらうぞ」
男はガーラントの皿に手を伸ばし、豪華な料理を平然とつまみ上げた。
突然の出来事に、ガーラントが怒りをあらわにして立ち上がる。
「おい、何のつもりだ!」
「うるせえなあ。こんなのは食ったもん勝ちだろ? こんだけ豪勢に振る舞ってんだ。もっと広い心を持てよ」
男は気にも留めず、素手で皿の料理をつまんで口に運ぶ。その無遠慮な態度に場の空気が凍りついた。
「おっさん。私たちが誰だか分かってるの?」
リリスが苛立ちを隠さずに、魔法のステッキを振り上げながら男を睨みつける。
「エストレア王国の中でだけ威張り散らしている、井の中の蛙だろ?」
「失礼な方ですね。私たちは王国認定パーティー、栄光の牙です。あなたのような無礼者に、私たちの名誉が傷つけられることは断じて許せません」
エレナが立ち上がり、男に冷たい視線を送る。
「あっそう。ようは身の丈以上の肩書を手に入れて調子乗って贅沢三昧しているクソガキ共だなことだな。ところで俺も自己紹介させてくんねえか?」
「貴様の名など聞く必要はない!」
ガーラントが鋭い視線を浴びせて、男を威嚇する。
しかし、男は全く動じることなく、その場に腰を据えたまま、ニヤリと笑った。
「えーと、私はですね、3つの国と2つの大商家から依頼を受けて、債権回収や財政健全化を請け負っている者です。名前は……ペタジーニと申します。これがその証明書です」
ペタジーニは、懐から一枚の羊皮紙を取り出し、振ってみせた。
証明書には、3つの軍事大国と2つの有力商家の印章が押されている。
「この国は至る所に借金をしていてな。そろそろ貸し倒れが起きそうだってことで、各国が団結して回収に乗り出したってわけだ。まあ、政治的駆け引きで無理に貸し付けておいて文句を言うこいつらも問題だが、それに気づかずホイホイ借りる方も借りる方ではあるがな」
訳がわからないといったような表情を浮かべた後、リリスは怒りを露わにした。
「それが私達になんの関係があるって言うのよ!」
「うわ、魔法使いでこんなに頭が悪い奴、初めて見たよ。冒険ばっかりして脳筋なのか?」
ペタジーニの挑発的な言葉に、リリスは今にも魔法を放ちそうな気配を見せたが、エレナとガーラントが急いで彼女を制止する。
「それで、その債権回収人が俺たちに何のようなんだ?」
ガーラントが問いかけると、ペタジーニはニヤつきながら話し始めた。
「まあ、一人で全部やるわけじゃねえからな。俺の担当分野は認定パーティー関連だ。債権者は全員、金食い虫だから廃止しろって言ったんだが、国王にそれだけは勘弁してくれって泣きつきまくったみたいでな。だから俺が黒字化を全権委任されて、ここにやってきたわけ」
ペタジーニが語り終えると、3人は顔を見合わせた。
「なによ、それ! 私たちはこの国を守ってるんだから、特権を受ける事なんて当り前じゃない!」
「落ち着きましょう。これまでより厳しい運営になるでしょうけど、認定パーティーは存続するみたいですし」
「それに今までの功績はかなりのものだ。王族も貴族も平民もそれを分かっている。だから、おいそれと簡単に我々の待遇を悪くすることは絶対にできない」
ガーラントは自信満々に言い切りペタジーニに向き直り口を開く。
「分かった。可能な限り黒字化とやらに協力する。だが、そのために具体的に何をしろと言うんだ?」
「そうだな。まずは国庫から支払われている、お前らパーティーメンバーの固定人件費の削減だな。どうしても人を削減しなきゃ、黒字化はできねえ」
「そうか……それならうってつけの人間がいる」
ガーラントは意味ありげに笑みを浮かて、エリオを見た。
目が合ったエリオは視線を落とす。
「エリオ、俺たちも非常に辛いんだ。だが、パーティーの存続のためには、どうしても犠牲が必要なんだよ」
ガーラントは、冷淡な口調でそう告げた。
「今まで私たちのおかげで、実力以上の待遇を受けてきたことには感謝してよね」
リリスは、見下すような笑みを浮かべながら言った。
「聖女様の教えに従って、あなたをここまで面倒見てきましたがもう限界です。これからは自分の力で未来を切り拓いてください」
エレナも、あざけるような視線を向ける。
幼馴染であり、今でも多少の情が残っていたはずの仲間達からの、一方的な非難。
馬鹿にされて引け目を感じながらも、家事や雑務をこなし、少しでも役に立とうと努力してきた。
普段は見下されていても、どこかで評価されていると信じていた。
だが、今のやり取りで、それが単なる幻想だったと痛感し、やってきたことが全て馬鹿らしくなった。
しかし、これから自分はなにをしたらいいのだろうか?
認定パーティーになってから3人は大金をもらっていたが、自分の報酬は微々たるものだ。新しい道を歩む資金すら貯金できていない。
エリオは、ただ下を向きうなだれるしかなかった。
ペタジーニはそんなエリオの顔をチラリと見た後、軽く肩をすくめて言葉を放った。
「なに言ってんだ? あの童顔坊ちゃんは留任だ。追放されるのは、てめえら3匹の金食い虫だよ」
ペタジーニの言葉に、エリオは耳を疑う。
ガーラント達3人も、驚愕の表情を浮かべる。
空気が凍り付き、この場を静寂が支配した。
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ご拝読頂きありがとうございました。
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