第14話 グレンのお留守番1日目5

「えっと……このテキストをつかって、べんきょうするんだよな……」


 ダイニングテーブルの上に置いておいたテキストを持って、グレンは自分の部屋へと戻ってきた。

 クレアから勉強を自分の部屋でやるように言われ、その通りにしたのだ。


(なんでじぶんのへやなんだろう?)


 ダイニングテーブルでも勉強はできるのにと思いながら、言われた通りに部屋に戻ると、そこには見慣れない物が置かれていた。

 朝までベッドしか置かれていなかったグレンの部屋に机と椅子が用意されており、そこには鉛筆等の筆記用具も用意されていたのだ。


「わぁ!これ、ぼくがつかっていいのかな!?」


 木製の机はシンプルながら本棚や魔道具のライトまで付いている。

 既に本棚にはいくつかの本が収められており、文字の本や、数字の本、他にも魔術の本や地図なんかもあった。

 そして、漫画の描き方を記した本や、人間の描き方の本、料理の本に、武器の本まで置いてある。

 明らかにクレアと寅吉の仕業である。

 そして一番目を引くものは……


「なんだろう、これ?」


 机の上に置かれた黒くて四角く薄い板と小さな箱、箱の上には幾つかの平べったく色違いの小さな板が置かれている。

 そして机のど真ん中に置かれた宝玉の様な翠色の石。

 グレンはその石をそっと手に取ってみる。


「きれいな、いし?」


 ツルッとした丸く磨かれたそれを手に取り、覗き込む。

 するとその石が突如淡く光だす。


「えっ、えっ!?なにかやっちゃった!?」


 慌てて宝玉机の上に置くと、グレンは少し距離を取っておっかなびっく覗き込む。

 次第に光が強くなり、宝玉の上に小さな魔法陣が浮かび上がる。

 やがて宝玉から一条の光となって放出され始めた。


「あーテステス。本日は晴天なり〜。大丈夫かな?

 無事にこれが起動したと言う事は、上手くいったみたいだね。グレン、君がこの映像を見ている頃には私は既に居ないだろう。よって、ここにメッセージを残すことにする。実は私は――」


 そこに映し出されたのは出掛けていったクレアの姿だった。

 小さな光のクレアは滔々と語り始め、宝玉から声が聞こえてくる。


「クレアさんが、ちいさい!」


 若干的外れな感想を抱きながら、グレンは光のクレアに触れてみる。

 立体的に映し出されているクレアは空中に浮いていいるが、ただの光のようで、グレンの指先が通り抜けてしまう。


「すごい!どうなってるんだろう?」


 グレンは目の前の不思議な光景に目を奪われ、じっと観察し始める。

 そこに横合いから寅吉が現れ、話だす。

  

「クレア、長い」

「えー、もうちょっと良いじゃん。こんなこと滅多にできないんだし〜」

「俺もやりたいから、早く」

「ノリノリじゃん……まぁいいや。とりあえずこれはグレンが宝玉に触れると発動する様にしておいた魔道具でね、事前にメッセージと映像が記録できるんだよ。これから横に置いてあるモニターと記録装置の使い方を説明するから、それを使って勉強してみてほしい。今から言う通りに操作してみてね」

 

 クレアはそう言うと寅吉と場所を交代する。


「ん゛ん゛、えーまずはモニターのスイッチを入れる。机の上に置かれた薄い板だ。向かって右側の側面に大きな赤いボタンがあるこら押してみろ。お前でも使えるようにしてあるから画面が点くはずだ」


 グレンは言われたとおりにモニターの側面を覗き込むと赤いボタンを見つけて押してみる。


「うわっ!」


 すると真っ暗だった画面が突如光だし、真っ青な画面になる。


「できたかな?青い画面が表示されたはずだ、では次に記録装置についてだ。それはこの宝玉と同じ様に映像と音声を記録しておけるものだ、本当はディスク型の方がそれっぽくていいんだが……扱いが難しいからな、そのスティク型に移し替えておいた。慣れたらディスク型も教えよう。まずは先程と同じ様に赤色のスイッチを入れる。スイッチは箱の正面右上だ。そして青色のスティックを手に取ってくれ」


 グレンは赤色のスイッチを入れると何かが動き出す音ともに、正面に幾つかの青い光が灯り、装置が起動する。

 青色の板を手に取り、寅吉の指示を待つ。


「記録装置が起動したら真ん中の穴に差し込むんだ。向きはどちらでも構わない」


 グレンがスティックを差し込むとモニターの画面が青色から変わり、可愛い動物達が動き回る動画が流れ始める。


「えっ、なにこれ?えっ、だいじょうぶ?」

「今モニターに動物の映像が流れてると思うが、これは文字の練習動画だ。文字のテキストと鉛筆を用意するように。動画に合わせて進めていくことで文字の練習ができて、説明もしてくれる優れものだ」


 グレンは流されるままにテキストを用意し、自分の目の前に置く。


「では画面の真ん中をを指でタッチしてみてくれ……動画が流れ始めただろう、その解説に従ってテキストを進めるんだ。止めたくなったらもう一度タッチだ。下に表示されたバーで進めたり戻ったりもできるぞ。やってみてくれ」


 グレンは画面を触って色々と動かしてみる。 


「おぉー、なんかうごいた!」


「説明は以上だ、幸運を祈る」

「いや幸運を祈ってどうするの。じゃあ頑張ってねグレン。ちなみに赤のスティックが数字、緑が魔術、黄色が武術、桃色はこの世界の地図や情勢なんか、紫はこの世界の法則、まあ物理や科学の話だね、動物の話もあるよ。テキストは用意してあるから色々試してね、一応文字と数字は読めた方がいいからその2つは先に必須だけどね。では健闘を祈る。なおこのメッセージ終了後にこの宝玉は爆発する」

「えっ?」


 クレアが不吉なことを言って画面から消えていく。

 グレンは椅子を立って後ろに避難する。

 

「んにゃ、しないからそのまま置いといてくれ」

 

 どうやら嘘らしい。

 寅吉の言葉と共に映像は途切れ、宝玉は輝きを失う。

 

「びっくりした……」


 素直に騙されたグレンは一息つきながら椅子へと戻って改めて表示されている画面を見る。


「すごいなーどうなってるんだろうこれ」


 本当にこの家にいると驚くことにばかりだ。

 もう慣れてきたかと思うと新たな驚きがやってくる。

 グレンの寂しさも、悲しみも、全部吹き飛ばしてくれる。


(いまは、これがいいな……よしっ、いっぱいべんきょうしよう!)


 グレンは早速テキストを広げてみる。

 

「うーん……むずかしそう?」

 

 文字の形は見たことがある。

 何となく覚えている。

 ちゃんと書けるかどうかは分からない。けれど――

 

(でも、やってみたい!)

 

 グレンは鉛筆をしっかり握り、モニターに指を伸ばし、モニターにタッチして動画を流し始める。


「がんばるぞー!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る