第11話 グレンのお留守番1日目2
◆◆◆
朝日が窓から差し込み、グレンの顔を照らす。
まだ暖かくなるにはもう少し季節が巡らないといけないこの時期でも、朝の光は優しくグレンを覚醒させる。
「――ここ、は」
目を開けたグレンに目に映るのは知らない天井だった。
「えっと……きのうはごはんたべて……そのまま……」
ゆっくりと覚醒する思考を巡らせながら、グレンは体を起こす。
柔らかな布団の誘惑を振り払って部屋の外へと出る。
昨日寝ぼけ眼で通った廊下を通って階段を降りると、そこにはクレアと寅吉がダイニングテーブルで朝食を食べていた。
「あ、おはようーよく眠れた?」
「にゃ、おはよう。よく寝てたから、先に食べさせて貰ってるよ」
「すいません……ねぼうしちゃいました?」
助けて貰って恩を返さないとと思った矢先に、寝坊したかと思い、グレンは素直に謝る。
「あはは、大丈夫だよ。ちょっと今日は2人とも用事があるから早起きしてただけだから。ごめんね、来たばかりなのに留守にして」
「いえ、だいじょぶです」
「朝食を食べたら家と家の周りを案内する。そのあとは自由にしていてくれ。夕飯までには戻る予定だ。昼食も用意してある」
特に怒られないと分かり、ほっとするグレン。
「それより早くこっちきてご飯食べな、冷めちゃうよ」
「はい」
席に着くと寅吉が焼きたてのパンとスープ、目玉焼きにベーコンとサラダを持ってきてくれた。
「わぁ、すごい。あさからこんなにたべてもいいんですか?」
「にゃ、大丈夫だ。パンのお代わりもあるから沢山食べろ」
「いただきます」
パンは焼きたてで柔らかくふっくらとしている。スープも野菜の沢山入ったものだ。
目玉焼きにベーコンなんて一緒に食べたことない。
(いまままであさからこんなにたべたことない……たべちゃって、いいのかな……)
そう思いつつ、1口パンを口にする。
「――おいしい!」
あまりの美味しさに一気にパンを沢山頬張ってしまうグレン。
「あはは、ゆっくり食べな。食べながらでいいから聞いててね。寅吉が言ったとおり、この後家の中と外を案内するね。私と寅吉は出かけてくるから好きにしてて。一応文字とか数字の勉強道具は置いておくから、気になったらやってみて。用事が終わればちゃんと教えるから」
「昼食はそこにサンドイッチを用意しておいた。あとこのコップにお湯を入れればスープになるやつも置いておくから好きに飲んでいいぞ」
どうやら2人は不在の間にグレンが困らないように朝から色々と準備をしてくれていたようだった。
(おゆ……かまどあるのかな?)
グレンはお湯を用意しろと言われて、台所を見渡すが竈門が見当たらない。
「あの……おゆはどうすればいいですか?」
「あ、それも説明しとかないとね。とりあえずご飯食べちゃって」
「はい」
ちゃんと説明はあるらしく、グレンはお腹いっぱい朝食を頬張った。
朝食の片付けをしながら、クレアはグレンに水道の説明を始める。
「いい?まずうちの家は井戸に水を汲みに行かなくても平気なんだ。ここにある水道の蛇口を捻ると、水が出る。こっちの蛇口はお湯が出る!どう、凄いでしょ?」
「――は、はい!すごい!なんですかこれ!ぼくにもできるんですか?!」
初めて見る道具にグレンは興奮を隠せない。
「ふふーん、これはね、魔道具なんだよ。こうやって魔力を込めると水を汲み上げてくれるんだ」
「おおー!」
「でね、こっちの魔道具は汲み上げた水をお湯に変えてるんだ。でもそのままじゃグレンが使えないから、ちょっと改造してみたんだよ♪。グレン、ちょっと使ってみて」
クレアは実演しながら魔道具の説明をする。クレアに促され、グレンは恐る恐る蛇口をに手を置いて捻ってみる。
「わぁ……できた……」
蛇口から水お湯が流れだす。
湯気を出しながら流れるお湯を見て、グレンは手を触れようとする。
(ほんとうにおゆかな……?)
「んにゃ!グレン、火傷するぞ!」
「わっ!」
グレンは慌てて手を引っ込める。
「ごめんね、まだ温度調整できるようになってないんだ。魔力は使わなくてもいいようしたから気を付けて使って。まあグレンが魔力を使えるようになったら意味ないけどね」
「ありがとうございます」
どうやら態々魔道具の改造をしてくれたようだった。
「にゃ、サンドイッチはこの冷蔵庫、魔道具の中に入れておくから中のものは好きに食べてくれ。この魔道具もそのまま開けたり閉めたりして大丈夫だから」
「はい」
「トイレはこっち、お風呂は昨日入ったから分かるな、ここのダイニングとリビングは自由に使ってくれていいぞ」
寅吉がそのまま部屋の案内をしてくれる。
「1階はあと倉庫とクレアの実験室、俺の武器のなんかもあるが、そこはまた追々だな」
グレンは頷きながら寅吉の話を真剣に聞いている。
「2階は部屋が結構あるけど……とりあえず分からないで入ると危ないかもしれないから今度案内するまで待ってて」
「はい、あの……このいえって……おおきくないですか?」
グレンは昨日の晩に寝ぼけながらも感じた疑問を聞いてみる。
「あー、そうだね。見た目より大きいかな。ちょっと魔法で弄ってるからね」
「んなー、クレアの物が増えていくからどんどん部屋が増えていくんだよ」
「寅吉もでしょ?この間は食材庫と刀のコレクション部屋を増やしてたじゃん」
「あれは生活必需品だから。クレアの本部屋の方が増える勢い凄いじゃん。本が日に焼けるよ?」
「あれは読んでる本だけですー。終わったら倉庫に仕舞ってるから大丈夫ですー」
やはりこの家は見た目よりも大きいらしく、原因はクレアと寅吉のコレクションによる物が大きいらしい。
「まぁ、グレンも段々と物が増えてきたら増やせるから。その時は言ってね」
「はい、なんにももってないですけど……」
「今は、ね」
ちょっと意味あり気にウインクするクレア。
(そんなにふえるかな……?)
グレンが個人的に持っている物は貰った服くらいしかない。
多少は増えるだろうが、今のグレンには思いつかなかった。
「んなー、それじゃあ外も軽く案内しておくかな」
「そうだね、外とも中々楽しいよ~」
グレンたちは玄関を出て家の外へとやってくる。
(そういえば……このいえはくつをぬぐんだよな……)
ふと、どさくさに紛れて受け入れていたが、この家では玄関を上がる時に靴を脱ぐ習慣があるようだ。
床は汚れておらず、清潔で美しく掃除されている。
また、裸足で歩いていても寒くないし痛くもない。
(くつも、たくさんある……すごい)
「グレンも新しい靴が必要だな。そのままだと足が痛いだろ」
「そうだね、なんかいいのあったかな……」
クレアが靴箱の中をガサガサと漁りだす。
「こ、このままでだいじょうぶです!」
「んにゃ?……大丈夫だ、捨てたりしない。家族との思い出があるだろ」
「……はい」
グレンにとって家族と繋がる数少ない物。
今手元にあるのは着ていた服と靴だけだ。
あの時、何も持ち出す余裕なんて無かった。
村がどうなっているか分からない、家が無事かも分からない、だからどうしても手放せない物なのだ。
「あったー!これなんかどうかな?動きやすいでしょ……あれ、どうしたの?」
「グレンの靴は思い出の物として取っておこうと言う話だ」
「そっか、ちゃんと取っておこうね。捨てられないよね〜、思い出が詰まってるもんね。大丈夫!その気持ちよく分かるから!捨てられないよね!」
「クレアはもう少し整理整頓した方がいいと思うけどな……」
「え゛っ?」
思わぬ流れ弾を食らってクレアが負傷しているが、寅吉はクレアから靴を奪い取り、グレンに手渡す。
「グレン、この靴を使うといい。今まで使っていた靴は洗って保存しておこう」
「はい!」
「私が見つけてきたのにー!虎吉だって散らかってることあるじゃん!」
「にゃ、よくやった。片付けも頑張るように。俺はその後ちゃんと片付けてるから大丈夫だ」
「ありがとうございます!」
「えぇ〜……ずーるーいー!虎吉だって変な料理作って私が処理してあげてるじゃん!」
「に゛ゃ゛!たまにはそう言うこともあるけど新作を作るには失敗が付きものなんだ!」
「苦くて焦げてるのはちょっと……」
「……すまん。だが、とりあえず寝室くらいは片付けて欲しいな、あとそろそろ倉庫の整理もしないとまずいよな」
寅吉も色々やらかしているようだが、クレアに片付けをするように苦言を呈する。
「分かってるって!でもね、忙しいだよ!色々と!」
「……漫画を読むのが?」
「そう!……じゃない!ち、違う!そう、違うの!違うんだって!読んで続きが気になって、でも前の巻の伏線とか気になるじゃん!だから必要なんだって!全巻置いておかないとダメなんだって!あと同じ作者の作品だとクロスオーバーしたりするし、下手すると同じ出版社でもコラボとかするじゃん?あれを〜探して見つけた時がまたなんとも言えなく嬉しいんだよね〜、この間も思わぬところでコラボしてるのを見つけちゃってさ〜いや〜嬉しかったね〜」
クレアが滔々と語り出したところで、寅吉は無言でグレンを連れて外へと向かうように促す。
グレンも憂いが晴れ、この場は寅吉に従うのが正解と判断。
クレアのことは置いて寅吉に着いて行くことにする。
「でね、そのコラボってのはね、作者先生同士が仲が良くって、出版社も違うんだけどお互いの作品にキャラが登場するんだよ〜って!置いてかないで!ごめん!片付けるから!寂しいから置いてかないで!」
「グレン、己の趣味を追求するのはいいが、ちゃんと整理整頓はするんだぞ」
「はい!」
「待って〜!お゛い゛でい゛がな゛い゛で〜!!」
半べそをかきながら、クレアが慌てて2人を追いかけて走り出すが、靴がちゃんと履けていなかったのか盛大に転んでいた。
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