第十五話 目覚め
眼前に広がる光景が信じられない。
俺はまだ、悪夢を見ているのか――?
目の前に列を成し、立ちはだかるゾンビたちは、一様に軍服姿である。その最前列に陣取った、見覚えのある茶髪のゾンビが吠えた。
『酒井、聞こえているか。今からいう事をよく聞いてほしい』
勿論これは翻訳機に頼ったゾンビ語の訳である。高橋ゾンビは続けた。
『まず第一に、お前は包囲されている。馬鹿な真似はするな。
第二に、お前は世界から追放される。”新世界基準”を満たさない旧人類——我々の通称でいうところの”ゾンビ”である! おとなしく投降し、身柄を明け渡せ!」
恐れていたことが、一気に全て起きたように思う。
中でも殊更に俺を射抜いたのは”ゾンビ”という言葉だった。
「な、に言ってるんだよ……! ゾンビはお前らだろうが! 高橋、お前……お前がこの事件の張本人なんだろう!?」
揺れる高橋の右目が、雄弁にも気怠さを語っている。事態の呑み込めない俺に、容赦なく高橋は告げた。
『旧人類はこれだから困る。しかし、酒井 徹。君はよくやってくれた。なんせ”30年にも及ぶ人体実験”の帰還者であるからな』
30年——?
俺の脳内で何かが、ぐらりと音を立てて揺れた気がした。
産まれ育った街並みも変わってはいないし、コンビニも変わりなく感じた。
だが。
今日だけじゃない。目が覚めた時の事を、俺は思い出せない。
俺は言い訳のように、先ほど裏切ったばかりの同胞の言葉を繰り返した。
「俺は……世界に選ばれたんだ! 俺がキュアに……! この世界の、キュアに——」
海風に煽られた新聞紙が、ポケットからひらりと舞い上がった。
見出しを彩った太い文字と、やけに毒々しいフォントが下卑た興味をそそらせる。俺は新聞に目を落とした。
ゾンビの憂い、X地区を襲う。
旧人類、酒井 徹は一人、この世界に何を思うのか。
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