第3話

「なんで長手なんだよ!」


 ホームルームが終わると同時、怒鳴るように言ったのは日野だった。

 荒々しく机を蹴り倒すと、燃え上がるように鋭い視線を俺に向ける。


「……仕方ないだろ」


 うんざりと言い返すと、日野はクシャクシャに丸めた紙切れを投げつけてきた。


「っざけんなよお前に何ができんだよ! 棒切れを振り回してクラス中に恥かかせる気かよ!」


 彼の投げつけた紙切れは熱を帯びていた。

 制服の肩に灰が付着する。


「そんなわけない。選ばれるからには全力を出すさ」

「でもさ、実際どうするの? 交流戦だから、強い能力がいっぱい来るよ」


 疑問の声を投げかけるのは、日野を取り巻く内の1人、有田だ。


「相性補完で何とかする。特訓も積む」

「相性、特訓……ねえ。は、餓鬼みてえだなあ」


 日野が吐き捨てるように言った。


「なあ日野、俺に戦い方教えてくれよ」


 藁にもすがる思いで言った。

 実のところ、俺にだって自信なんかない。最弱の能力に等しい俺が交流戦に出るなんて、思ってもみなかった。

 クラス中どころか、学校中の期待を一身に背負って戦うなんて……。


 俺の提案を受けると、日野は吐き捨てるように笑った。


「長手え、お前辞退しろよ。自分でも分かってんだろお?」

「辞退はしない。やるからには全力だ」

「くだらねえなあ。お前のプライドがみんなに恥かかせるんだよ」

「だから戦い方を教えてほしんだ。一番強い日野に」


 真っ直ぐ彼を見つめると、熱い眼差しが返ってきた。

 日野の迫力に負けまいと視線を逸らさない。


 やがて日野がため息をついた。


「やなこった。どうせならお前が負けて惨めなダサい面浮かべるのを見てえからな」


 日野はそう言って甲高く笑った。


 これ以上あいつに構っても意味がない。

 諦めた俺は、連字れんじのペア――一色に話し掛けることにした。


「なんか、大事になっちゃったな」


 声を掛けると、一色はぼんやりと俺を見た。


「できる?」

「できるさ。やるからには勝とう」

「ふーん。じゃあ、よろしく」


 それだけ言って一色は眠ろうとするので、俺は慌てて彼女を起こした。


「待て待て。せめて何か作戦を立てよう。先生がああいうからには、俺たちの相性はいいはずなんだ」

「何その言い方、何か気持ち悪い」

「うう、ごめん……」


 笑い声を上げるのは日野だった。


「おーい長手え。お前もうフラれてんじゃねえか!」

連字れんじは連携と相性が重要なんだよー」


 彼らの嘲笑を背中で受け止めながら、俺は一色を説得する。


「一色の痣名あざなは『変』だろ。だからさ、俺の棒を変えることだってできるわけだ」

「まあできるけど」

「例えば剣とか槍とか、武器にすることもできるわけじゃん」

「……あんたは剣とか槍とかを『棒』だと思ってるの?」


 俺は言葉に詰まった。

 一色の言う通りだ。俺の能力は”棒を扱うとき”に発揮されるものであり、それを変化させてしまっては効果がなくなる。


 剣や槍の扱いは、俺の痣名あざなの範囲内ではない。


「それは、何とかするしかない」

「どうやって」

「一緒に考えてくれよ」

「やだよ」


 一色に一蹴されたとき、チャイムが鳴った。




 放課後に職員室へ行って、桐島を訪ねた。


「やっぱり無理です。俺たちの能力は弱いし、一色はまるでやる気がない」


 包み隠さず本音を言うと、桐島は眉間に皺を寄せた。


「俺はいい組み合わせだと思うんだが」

「俺は”棒”じゃないと扱えません。一色が棒を変えたら、能力は使えなくなります」

「だったら棒のまま変えればいいじゃないか」

「それじゃあただの棒じゃないですか。一色と組む意味がない」

「それだけだったら、な。お前は一色の能力のを知らない。『棒』と『変』なら、あるいは超常的な能力も――」


 そう言うと、桐島はフッと意味深長に口角を上げた。


「……どういうことですか?」

「俺が教えてやってもいいが、理想はお前たちで見つけることだ。まずは一色とコミュニケーションを取れ。互いを理解しろ」


 俺から言えることは以上だ。

 桐島は話を切り上げた。

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