第5話 うち、なんで店閉めとるんやろうか?

 あら?フェリー、圏外に出てしもうたんかいな?切れてしもうたばい。スマホば握ったまんま、うち、カウンターでボーっとしとる。宮部さんとミキちゃんがバタバタ出ていった後は、お客さんも来んし、シーンとしとるっちゃ。店のグラスがピカピカに磨けてしもうて、手持ち無沙汰やね。


 まったく、年齢的には、ミキちゃんよりうちやろうが!なんでミキちゃんやねん?…まあ、そやな。うちはバーの仕事があるし、プータローのミキちゃんは自由やもんなあ。服から何から、ボストンバッグに詰め込んどるけ、そりゃあ、宮部さんだって、お持ち帰り…じゃないな、あの子が強引についていったんやもんなあ。うち、内心、「ミキちゃん、やり手やね。うちがその立場やったら、宮部さんとスイートルームやったのに」とチクッと嫉妬が刺さる。高校、大学と、うちったら、いつも誰かに男ば横から持ってかれとった。ついてない人生やねぇって、昔のこと思い出してため息が出るっちゃ。


 まあ、ミキちゃんも、大学生で同棲して、相手がDV男でアパート飛び出して、プータローになったんやけ、あの子もついてない人生かもなあ。うち、内心、「ミキちゃん、苦労しとるっちゃね。やけん、あの子の幸せ見てると、ちょっと複雑やね」とグラスば手に持ったまま考える。そやけど、あの子の無邪気な笑顔見ると、うちまでほっこりするっちゃ。


 それにしても、フェリー、片道切符ば買うたけど、ミキちゃんは大阪で何ばするんかいな?たぶん、宮部さんが帰りのチケットば買うてくれるんやろうけど、彼だって仕事できとるんやし。明日、こっちに帰ってくるんかいな?着くのが大阪南港とか言いよったな?09:30着?うち、内心、「ミキちゃん、大阪でほっぽり出されたらどうするんやろ。宮部さん、ちゃんと面倒見てくれるんやろか」とちょっと心配になる。そやけど、同時に、「あの二人、楽しそうやね。うち、置いてかれた気分や」とモヤモヤが募るっちゃ。


 なんか、鳶に油揚げば持っていかれたような気がするばい。なんか、腹立ってきたっちゃ。ええよなあ。今頃、関門海峡辺りかいな?21:00発で09:30着のフェリーねえ。12時間もアラフォーの男と23才の女が、スイートルームに二人きりやけ。夜の海ば見ながら…ええなあ…。うち、内心、「あの部屋の窓から見える海、綺麗やろなあ。ロマンチックやねぇって、想像したら悔しかなるっちゃ」と指先でカウンターばトントン叩く。なんか気になるけ、うち、スマホで検索してみたばい。大阪南港って、住之江区にあるんやね。ふ~ん。Googleマップで見ると…新大阪駅からは、タクシーで30分くらいかかるんや。ふ~ん。でも、小倉からのJRは最終が出てしもうとる。なるほど。あら、夜行バスなら、小倉23:20発で、大阪梅田に07:20に着くんや。ふ~ん。梅田から大阪南港まで…20分…ふ~ん。フェリーの着く9時前には間に合う。なるほど。


 って、うち、何ばしよるんかいな?内心、「うち、ほんとに何考えよるんやろ。ミキちゃん迎えに行くつもりか?」と自分で自分に呆れるっちゃ。ミキちゃんの言いよった0.01ミリが、0.01ミリが、0.01ミリが…頭ん中ぐるぐる回る。ミキちゃん、可愛いけんなあ。宮部さんだって、ミキちゃんが誘うんやけ、我慢する必要もないわけやし!あの子、うちに見せつけるように、スマホで部屋の映像ば送ってきたわね。く、悔しか!悔しかやんか!うち、内心、「あのビデオ、わざとやろ!スイートルームの窓とか見せられて、うちの心、ズキズキするばい」とスマホば握り潰しそうになる。


 ないっちゃ、我慢なんかいらんっちゃ!ぜぇ~ったいに、あの二人はやる!ニャンニャンするっちゃ!うちなんか、ここしばらくご無沙汰やのに…悔しくなってきたばい。酒、飲んじゃおう!カウンターのグレンリベットのボトルば手に取って、グラスにドバッと注ぐ。うち、内心、「宮部さんが注文したトリプル思い出すね。やけ酒やけど、美味かね」と一口飲む。…一人で飲んでも面白くないっちゃね。もう十時かぁ~。お客もおらんし、お店、閉めちゃおうかな?で、家に帰るん?つまらんのぉ。夜行バス、23:20発ねえ。バスターミナルは…小倉駅前なんや…リーガロイヤルホテル小倉…家に帰って、荷物ば詰め込んで、ダッシュすれば、23:20発なら乗れる!今なら乗れるっちゃ!


 いやいや、ないない。それで、大阪南港に行って、ニャンニャンした宮部さんとミキちゃんばフェリーターミナルでアラフォー女が仁王立ちで待ち構えるって、ないないばい。あんたら、ニャンニャンしたやろ!って指差すん?そりゃ、惨めやん。うち、内心、「そんなん、恥ずかしすぎるっちゃ。うちのプライドが許さんばい」と首ば振る。そやけど、待てよ?宮部さんはお仕事行ってしもうわけやし、ミキちゃんはどうするん?そのままフェリーで帰ってくる?一人で?う~ん、やけん、ミキちゃんば大阪まで迎えに行くっちゃ。それで、大阪でお買い物して、小倉に戻ってくる。やけん、お姉さん役の直美としては、保護者として、ミキちゃんば…。


 あら?うち、何、お店閉めよるんやろうか?シャッターばガラガラ下ろして、鍵ばかけとる。うちは何ばするつもりなん?内心、「うち、ほんとに夜行バス乗る気か?ミキちゃん迎えに行くなんて、言い訳やろ」と自分で自分にツッコミ入れる。え?あら?店ん中の照明ば消して、バッグば肩にかけとる。うち、内心、「まじでやっとるばい。ミキちゃんのこと心配やけど、宮部さんと楽しんだ後見るのも悔しかね」と複雑な気持ちで店のシャッターを叩く。小倉駅前まで走れば間に合うっちゃ。ミキちゃんの笑顔と宮部さんの優しか顔が頭に浮かんで、うち、「くそぉ、負けとられん!」って足ば速めるっちゃ。

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