第13話 ファイル名

 ソフトウエアに詳しい朝比奈が結城さんにそっと何やらを耳打ちした。すると結城さんは、驚いた様子になった。


「え、そうだけど。それが何だって? いや、そうなのか?」


 結城さんの顔が僕の方を向いた。


「朝倉君、ちょっと聞きたい事がある。廊下に出てくれるか?」

「は、はい?」


 僕は結城さんに手を引っ張られて廊下に出た。結城さんは少し興奮した感じで僕に問いただした。


「朝倉、耕くんって名前で良かったよね?」

「はい。耕です」


「あの、つかぬ事を聞いて申し訳ないんだけど、君のお母さんの旧姓って何かな?」

「旧姓……ですか?」


「そう。旧姓」

「えっと、さわぐち……沢口です」


 結城さんはごくりと唾を飲んでから、おそるおそる聞いてきた。


「沢口 あいさん……かな?」

「え、ええ。そうですが……」


 僕が怪訝な表情で答えると結城さんは一度大きく呼吸して、何かを想い返すように視線が宙を泳いだ。


「まさか……ね」


 結城さんがそう呟きながら、僕と保健室に戻ってきた。


「どうやら結城さんは朝倉君のお母さんを知っている様ね」


 そんなことを呟いた朝比奈に僕が質問する。


「朝比奈、何か調べたのか?」


「美亜のアクセス可能なデザインデータファイルを参照しただけよ……ファイル名にasawagって付くのがたくさんあったの。私、自分のAIプログラムでその名前を関連検索したら、沢口という名前が出て来て朝倉君との関係も導かれたのよ……」


「そのAIすごいんだけど。君が作ったの?」と結城さん。


「はい。冬休みにちゃちゃっと作っちゃいました」


「すごいね。天才現る、だ」


「たいしたことありませんよ。それより結城さんは朝倉君のお母さんをどうしてご存じなんですか?」


 朝比奈はずけずけと訊いた。

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