第6話 美亜の秘密

 昼食の時間は弁当やら、食堂やら、売店やらで生徒達は思い思いに昼食を取るが、美亜は授業中と変わらず自席に座ったままじっとしている。


 なんならトイレにすら行かないので、体育や別室での授業以外はずっと自席に座り続けている。

 

 時々女子生徒に誘われてどこかへ行くことがあるが、それ以外で席を離れることは無かった。


 たまたま誰も美亜に近寄らないような時間ができると、たいていははざま千穂ちほが美亜の相手をすることが多かった。


 最初の緒方の一件以来、千穂は美亜のことを気にかけているようだった。同じ孤独な女子同士、気が合ったのかもしれない。


 ある昼休み、僕が隣の席で昼食を食べていると、美亜が一人になっていたので、僕は何気なく聞いた。


「本当に何も食べなくていいの?」


「はい。もちろん大丈夫です」


「模擬的に食べることはできるの?」


「実はできます。少量でしたら。でも胃があるわけではないので、体内で適切に処分します」


 美亜はクリクリとした碧い目で答えた。僕はその目に潤いを感じて訊いた。


「涙も出たりするの?」


「涙や汗は出せるように設計されています。でも排泄はしませんよ」


 僕は勉強以外で美亜がこんなにしゃべるのを初めて聞いた。


 僕は食べ終わって飲み物を探しながら話を続けた。どうやらお茶を持ってくるのを忘れた様だ。


「へー、詳しくは聞かないけどそんなこともできるんだね。他にも何か変わった機能はある?」


「はい。あ、あの一つだけ……朝倉さんはお隣なのでお伝えしておきますが、私は全ての音声や映像を記録しております。ですので私の近くにいる時は言動にお気を付けください」


「へ? 記録してんの?」


「はい。常時」


「やられた」


 驚いた。まさか全ての記録をしているなんて、迂闊な事はできない。

 そう思うとさらにのどが渇いた。


「ちょっとお茶でも買ってくるから」


「あの、朝倉さん。普通の日本茶なら私持っていますが」


「え? どこに?」


 見たところ美亜のまわりにはそれらしきものは何も無い。


「ちょっと失礼します」


 そう言うと美亜は突然自分の服をたくし上げてお腹を見せた。


「な、何を!!」


 服を脱ぎ始めたかと思った僕はとても驚いた。すると……


 なんと美亜のお腹の皮膚がスライドし、中に収納スペースがあるのが見えた。


 飲み物や食べ物が数点見える。やはり彼女はロボット、いやアンドロイドなんだ。


「ぐわ。お、お前は……」


「はい、私の腹部は冷蔵保存庫になっています。お茶をどうぞ」


 美亜は缶のお茶を取り出し僕にくれた。凄い秘密を知ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る