第3話 グレースノートプロジェクト

 すると緒方が突然発言した。彼は粗暴ではあるが物おじしない強気の性格でもある。


「そいつの試験の目的は何なんすか?」


「美亜は……このプロジェクトは、AIを思春期の子供達と交流させて、子供達の人間性をより良いものにする計画です。美亜は言わばカウンセラーみたいな役割を持つセラピーAIですね。これがどの程度あなた達に効果を及ぼすことができるのか、実際に試してみるのが目的になります」


「本当にアンドロイドなのか? 人間にしか見えんけど……」

「機能試作に10年、百体以上の試作を繰り返して、この美亜は外観や動きをほぼ人間と同等レベルまで高めました」


「「すごい」」


 感嘆の声が漏れた。僕は美亜を一目見た時、なぜか前に見たことがあるような気がした。


「これから3カ月間、みなさんと一緒に学校生活をさせていただきます。せっかくのフィールドテストですので、みなさんには色々な交流をしていただきたい。彼女は会話もメールも運動も、何でもできます。みなさんの勉強やお悩みの手助けができます。一緒に遊ぶこともできます。遠慮なく話しかけて頼ってみてください」


「あの、食事とかはするんですか?」

 女子生徒が聞いた。


「この子の体の中は機械ですので食事は不要です。自律的に充電もします。細かい機能などは美亜自身から必要に応じ説明しますが、とにかく運用するのに何も手がかからないのが一つの特徴です」


「他に質問はありますか?」品川先生が生徒達に聞いた。「なければ、美亜さん、自己紹介をお願いします」


「みなさん、美亜と申します。私はみなさんの気持ちを楽にすべく生まれました。何でもしますので、これからよろしくお願いいたします」


 美亜の透き通るような声は、生徒達の耳に優しく印象的に響いた。

 特に僕には心を鷲掴みにされたような、懐かしい声に聞こえた。


 そして……彼女は僕の隣の空いた席に着いた。


 これが全ての始まりだった。

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