第14話 部屋でふたり

シャワーを終えて、私が制服を着て、夜野さんは部屋着に着替えた。


「制服、乾きましたか?」


「まだ少し湿っているけど、大丈夫」


夜野さんは、ふわふわとしたスウェットに、ひらひらとした白いブラウスで、どこか幼さを感じさせる柔らかな印象だった。


廊下には雨音が微かに聞こえてくる。雨が止む気配はあまり感じられなかった。


「まだ外に出ないほうが良さそうですね」


「うん。ここで傘を借りても、壊しそうだし」


「でも……。はづきさんを……」


夜野さんが小さな声で何かを言いかけた。


「なにかな?」


「いえ、何でもないです」


夜野さんの頬が赤く染まっている。

シャワーの温かさのせいだけでは、なさそうだった。。


「では、雨が弱くなるまで、私の部屋へ……上です」


案内されて2階へと上がった。

夜野さんの部屋は整然としていた。

本棚には小説や漫画が綺麗に並び、学習机の上には筆記用具がきちんと整頓されている。

ベッドには胴の長いウサギのぬいぐるみが寝そべっていた。

全長は夜野さんの半分といったところだ。


「あ、それは……!」


夜野さんは慌ててぬいぐるみをクローゼットに隠そうとした。

私の視線がぬいぐるみを見ていることに気がついたのだろう。


「そんな急いで隠さなくていいのに」


「いえ、あの、恥ずかしくて……」


「私も持ってるよ。ちくわのやつ」


「ちくわ?」


「珍しいし、触り心地がいいからね」


ひとまず夜野さんは、私が大きめのぬいぐるみと寝る同士だと分かり、ぬいぐるみをベッドに戻した。


「では、温かい飲み物でも……はづきさんは座っていてください」


と、夜野さんが部屋を出ようとしたときだった。


窓の外が一瞬明るくなり、すぐにとても大きな轟音が廊下側から響く。

かなり近くに雷が落ちたのだ。


「きゃっ!」


夜野さんが驚いて飛び、思わず私に抱きついた。


「うわ……」


「わ、わわ」


私は夜野さんを受け止めたが……。

ベッドに向けて、バランスを崩した。


「あっ」


「きゃ」


と着地する。

もし胴の長いウサギのぬいぐるみが喋れるなら、下敷きにされて呻き声を出したはずだ。


「えっと、大丈夫?」


「はい……はづきさんは?」


夜野さんの体が、少し震えている。

私は優しく、背中を撫でた。


「すごい雷だったね」


「びっくりしました」


落ち着いた私は、夜野さんのベッドに倒れ込んでいることを思い出した。

すぐにどかなくては、と思い、


「ごめん」


短く謝って、立ち上がろうとしたけれど……

寝転がったままの姿勢の夜野さんに、引っ張られていた。


「はづきさん……」


「えっと……」


「私、嬉しいです。こうして……一緒にいられることが」


「私も……嬉しいよ」


立ち上がるのをやめて、夜野さんを抱きしめる。

ベッドの上にいるせいか、香料のよい香りに包まれると、気分がよかった。

胴の長いウサギには「いい加減にしてくれ」と言われるかもしれないが、いい雰囲気なので許してほしい。


しばらくそのまま抱き合っていると、また雷が鳴った。

でも、さっきほど夜野さんは驚かなかった。


外の雨音を聞きながら、いろんな話をした。

学校のことや、好きな本、サキのこと。

そして、夜野さんのこと。


「夜野さんって、意外と積極的なところあるよね」


「そ、そうですか?」


「最初に付き合おうって言ったのは夜野さんだったし」


「あれは……勇気を出したんです」


「今日も、シャワーのときとか……」


夜野さんの顔が赤みを帯びる。


「ち、違う話しましょうよ!」


そう慌てる姿も、可愛かった。


夜野さんと、さらに話をしばらく続け、すっかり夢中になってしまった。

はっとしたのは、スマホからグループチャットの通知音が鳴ったからだ。


『今日の天気やばかったな』


という翠花のメッセージをきっかけに、帰る準備を始めた。


夜野さんの家を出ると、雷雨は嘘のように晴れ渡っていた。

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