第5話 ピクニックへ
「ピクニックに行かない?」
「ピクニック……ですか?」
ロゼはソラリスをピクニックへ誘った。犬に襲われて自分が気を失ってしまったことを、ソラリスは気に病んでいるのか、元気がなかった。それを見かねて、ロゼはソラリスを誘ったのだ。
季節は初秋。穏やかな晴れ間が続いていて、ピクニック日和だ。
「お弁当はね、もうお願いしてもらってあるの。心配なら、護衛もお願いするから」
「……はい。お願いします」
ソラリスがほっとしたように頷く。やっぱり護衛がいないと不安だったんだな、とロゼは思った。ソラリスもきっと、あの野犬の時には恐ろしい思いをしたに違いないから。
馴染みの父の護衛にお願いすると、快く引き受けてくれた。侍女も何人かについてきてくれるようお願いした。
万全の態勢を整えて、ロゼとソラリスはピクニックへと向かった。
「姉上……大丈夫ですか?」
「大丈夫……」
ピクニックに選んだのはすぐ近場の山だった。その中腹まで登る予定だったのだが、ロゼは途中で息が上がってしまった。
ソラリスが心配そうにロゼの傍らにより、ロゼを支える。
「姉上、少し休みましょう?」
「ええ……ごめんなさい、ソラリス」
近くにあった岩場にロゼを座らせて、ソラリスも隣に座る。
ロゼはため息をついた。折角、ソラリスを楽しませたいと思ったのに、却って足手まといになってしまっている。登りやすいと聞いた山なのに、12歳のロゼにとってはまだ、厳しかったらしい。
「姉上、お水をどうぞ」
ソラリスが革袋を出して、ロゼに渡してくれる。ロゼは礼を言って、それを受け取った。
飲むと、乾いた喉が潤いとても美味しかった。
「ソラリスも、どうぞ」
革袋を渡すと、ソラリスは、一瞬迷ったような顔をして、結局、首を振った。
「僕は大丈夫です」
「そう……? 飲んでおいた方が良いんじゃない?」
「いえ、本当に大丈夫です……」
ソラリスは、なぜか視線を逸らした。あまり強要しても良くないかとロゼは革袋を侍女に渡す。
「見て、ソラリス。景色が綺麗ね」
「本当ですね」
ソラリスが目を細めた。まだ中腹にも至っていないというのに、眼下には紅葉に染まった森林が見えた。
しばらく景色を楽しみながら休んでまた歩き出す。隣を歩いていたソラリスが、そっとロゼに手を出した。
ああ、心配してくれているんだなと嬉しくなって、ロゼはその手を取り、甘えることにした。
ソラリスの手は少し自分よりも大きくて、ひんやりと心地良かった。
やっと山の中腹に着き、ロゼは肩で息をした。ソラリスを見ると彼は全然平気そうで、心配そうに自分を見ている。最後の方は本当にソラリスに手を引っ張ってもらって歩いていた気がする。
「ごめんなさいね、ソラリス。大変だったでしょう」
「いえ、少しも。姉上は軽いので……それより、大丈夫ですか?」
心配そうに尋ねてくるソラリスに、ロゼは無理に笑う。ソラリスを元気づけたいと思ったのに、これではあべこべだ。
「大丈夫よ。お弁当をいただきましょう」
「はい……」
作ってもらったお弁当を広げる。おにぎりと卵や肉料理や温野菜が品数が豊富に入っていた。ロゼはお弁当を皿に取り分けて、ソラリスに渡した。
「どうぞ、ソラリス」
「……ありがとう、ございます」
護衛や侍女にも礼を言って、休んでくれるように頼んだ。ふたりで岩場に腰かけ、お弁当を食べた。空気は澄んで、時折吹く風が優しい。
ソラリスはあっという間に一皿平らげてしまい、ロゼは微笑んで皿を渡すように言う。
卵料理や肉料理を取り分けて、おにぎりも2つ乗せて再びソラリスに渡す。ソラリスは礼を言って受け取った。風が吹いて2人の髪を揺らす。
「気持ちが良いわね。あとで散歩しましょう?」
「はい、姉上」
食後のデザートに柿も入っていて、ロゼはそれを綺麗にナイフで剥くと、ソラリスに渡した。
「美味しい?」
「はい。とっても甘いです」
「良かった」
ロゼはふわりと微笑む。一時はどうなることかと思ったが、なんとか楽しいお出かけになりそうだ。
そう思った時だった。強い風が吹いて、辺りが急に暗くなった。顔を上げると、ぽつ、と雨が頬に当たる。
雨はたちまち激しく降り始めて、ロゼはソラリスの側へと寄り添った。
「姫様! 若君様! 大丈夫ですか?」
護衛のひとりが声をかけてくれる。
「ええ、平気……」
ロゼは腰に巻いていた1枚布を解いて、ソラリスと自分にかけた。
「こちらに、洞窟があります。そこへ避難しましょう」
「ええ……大丈夫? ソラリス」
「僕は大丈夫です。姉上こそ……」
ふたりは大雨に降られ、護衛に連れられて洞窟へと避難した。
「本当にごめんなさいね……」
ロゼはソラリスに謝った。山の天気は変わりやすいときいていたけれど、こんなに急に変わるとは思わなかった。謝られたソラリスは、驚いたようにロゼを見る。
「姉上が謝られることなんて、なにもありません」
「でも登るときから迷惑をかけているわ」
「そんなことありません。僕は嬉しかったです」
それより、とソラリスはロゼに声をかけた。
「姉上、寒くないですか?」
身につけていた1枚布は雨避けに使ってしまった。全身濡れ細って、ロゼは小さくくしゃみをした。ソラリスが慌てて自分の1枚布を脱ぎ、ロゼの頭から被せて拭き始める。
「ソラリス! あなたも寒くなってしまうわ」
「僕は大丈夫です。姉上よりも頑丈ですから」
そう言って、ロゼの水をたっぷり含んでしまった髪を、とんとんと、優しく叩く。
「ありがとう……ごめんなさいね、ソラリス」
「僕は姉上とピクニックに来られて嬉しかったです」
ソラリスは、静かにそう言う。そしてにこりと微笑んだ。
「本当ですよ」
その笑みに勇気づけられて、ロゼは笑う。
外はまだ激しい雨が降り続いていた。
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