第16話 勇者一行の戦いの後
~前回のあらすじ~
とうとうシェリルは魔物を自らの手に掛け、ユミーナからの依頼は達成したものの、精神的な消耗から意識を失ってしまう。
レピはシェリルの剣に続き、スウォルの肉体に謎を見出だし、思案に耽る。
魔物の首を持ち帰る為、一行を先に宿に帰らせたリエネは、スウォルに背負われ戦場を発つシェリルの背を見送りながら、現地の兵と彼女について言葉をかわすのだった。
リエネが魔物の首を荷車に載せ、一行の後を追い出発した頃、リリニシアはレピの後ろに続き、難しい顔で項垂れ、時々唸り声をあげていた。
そのまた後ろでシェリルを背負いながら、スウォルが問い掛けた。
「そんなに気に入らないのか?首」
「気には入りませんが、リエネさんの言うことにも一理ありますのでそれは構いません」
「じゃあなんで下見てん唸ってんだ?」
「…レピさんですわ」
「え、僕ですか?」
“体力を多く残している自分が”と、念のために周囲を警戒しながら先頭を歩くレピが、急に名を挙げられ驚き、不安そうに振り向いた。
「あ、別に文句ではありませんのよ?ただこう…すごいな、と」
「すごい、ですか?」
「さっきの戦いでいくつも魔術を使ってたではありませんの。強化魔術に風を纏わせるもの、土に水…。それも最後の二つは
レピの活躍を、どこか興奮したように語るリリニシアに、スウォルは頷きつつも、落ち込んだ様子に繋がらないようだった。
「確かにすごかったけど…なんでそれで?」
「それに比べてワタクシは…全然役に立てなかったと思いまして」
一転、リリニシアは再び視線を地面に落とす。
「そんなことねぇだろ?リエネさん回復させてなかったら姉ちゃん危なかっただろうし」
「それに氷の魔術で補強してくれなければ、水の拘束だけでは力負けしていたかも知れません。この僅かの間に氷の魔術を修得したのは驚異的ですよ」
「そうそう、火と回復しか出来なかったのに」
レピは出会いから二ヶ月と経たずに氷の魔術を修得してみせたリリニシアを称賛し、スウォルも強く頷くも、本人は納得しなかった。
「回復も氷も、やろうと思えばレピさん一人でこなせたのではありませんの?」
「それは…」
言い淀むレピを見て、リリニシアはため息をついた。
「やっぱり。ワタクシ、魔術を覚えて二人の役に立てると思ってたのに、蓋を開けたらコレですもの。落ち込みもしますわよ」
レピは当然として、幼馴染みのスウォルですら、こんなに静かなリリニシアの姿を見るのは初めてだった。
“姉ちゃん起きたら話してやろ、驚くだろうな”などと考えている中、レピは答える。
「リリニシア様ならそう遠くない内に、自ら
「そうでしょうか…」
「それに、おそらく僕はリリニシア様が思っているほど凄い魔術師ではありません。
「それでも使えること自体がスゴいのですわ!」
「なぁ、“媒介”って?」
魔術師同士の話についていけず、スウォルが聞いた。
「その話してる時、スウォルもいませんでした?」
「その場にはいましたが、聞いてはいなかったんでしょうね…。リリニシア様、復習がてらスウォルくんに説明してあげてください」
レピはリリニシアが自信を取り戻すのに繋がると見て、任せることにした。
「分かりましたわ。優れた魔術師は、環境的に恵まれていたり、精神力に余裕がある時、事前に魔術を物に溜め込んでおくことが出来ますの。それを“媒介”と呼ぶのですわ」
「へー」
「それを使えば、本来は使うことが難しい状況──自然が乏しいところなんかであっても、発動が容易になるんですの」
「“環境に助けられた”ってのは?」
「…あなた、何にも聞いてないんですのね」
矢継ぎ早に質問を、それもスウォルの前でしていた話を改めて聞かれ、リリニシアは呆れながら続けた。
「さっきも言いましたが、基本的に魔術は環境によって難度を左右されます。環境が整っていれば、同じ魔術でも発動しやすいんですのよ」
「ほー」
分かったんだか分かってないんだか分からないような相槌を打つスウォルに、リリニシアは構わず、どころかむしろ、説明を楽しむかのように続ける。
「さっきで言えば、雨が降っているお陰で水の魔術が、土がぬかるんで柔らかくなっていたお陰で土の魔術が使いやすい環境だったということですわ」
「なるほど」
「それを利用すれば、
語る内に機嫌が直ってきたか、というところで再び肩と視線を落としたが、すぐに一人で持ち直した。
「いえ、いつまでもクヨクヨしていられません。レピさんに追い付いてみせますわ!」
「そう簡単に追い付かれては僕の立つ瀬がありませんが…リリニシア様なら本当にそうなりかねませんね」
レピは苦笑を浮かべた。
「それよりスウォル!」
「ん!?」
リリニシアの矛先は“一番スゴいのはリリニシアの感情の波だよ”と思いつつ黙っていたスウォルに向けられた。
「レピさんの魔術があったとはいえ、よく
「あー。絶対死んだと思ったんだけどな、正直」
「自信があったんじゃありませんの?」
「いやー、俺も必死で。この盾の力なんだろうな、やっぱ」
スウォルはシェリルの体を保持する左腕に目を移す。
リリニシアはスウォルの後ろに回り込み、盾をまじまじと見つめた。
「見た感じは普っ通~ぅの盾ですけれどねぇ」
「な。でも
「光って震えるだけじゃないんですのね。ふっしぎ~…」
リリニシアは興味深そうに盾を眺め、呟いた。
「…っていうか、そろそろ姉ちゃん背負うの変わってくんねぇ?結構疲れて来たんだけど」
「え?
「全然そんなことねぇ、普通に重い」
「はぁ!?女性に向かって!?コイツ最ッ低ですわ~!!」
「しょうがねぇだろ重いモンは重いんだよ!」
“少なくとも、決して普通の盾ではない”。
スウォルの盾は──
二人の会話を聞きながら、先頭を歩くレピは一人、剣と盾の謎について考察を進めた。
“シェリルが重い”という以上、常に異常な力を発揮する訳ではないようだが、まだ手がかりが足りない。
宿に辿り着くまで、満足の行く回答に辿り着くことはなかった。
シェリルは最後までスウォルが背負った。
昼前に戻った一行を迎える宿屋の主人は、魔物を倒したと聞いても半信半疑といった様子だった。
朝食を抜くことになった一行は、しかしリエネの到着まで待つことにし、ひとまず入浴ついでに汚れた服を洗い、乾くまでの間は宿の寝巻きを借りることにした。
まだ目覚めないシェリルをベッドに寝かせ、服はリリニシアが脱がし、自身の服とまとめて洗った。
リエネが到着したのは一行の入浴・洗濯が済んだ頃で、彼女の持ち帰った首を見た主人は目を丸くし、一行に無料で食事を振る舞った。
リリニシアは改めて、首を持ち帰る利点を焚き付けられ、複雑そうな表情で食事を口に運んでいた。
それからさらにしばらく後、夕方頃──。
「ん…。ここは…?」
「お、起きたか。宿だよ。調子はどうだ?飯食える?」
「スウォル…」
仲間たちの見守る中、いそいそと上体を起こしたシェリルは、少しの間ぼんやりとしていたが、思い出したように表情を変えた。
「魔物は!?」
一行が言いづらそうに沈黙する中、リエネがそれを察し、代表して言う。
「死んだ」
「!」
「君のおかげだ」
「私が…殺し──」
「いや」
シェリルの言葉を遮り、リエネが続ける。
「君のおかげでヤツの再生は止まったが、息の根を止めたのは私だ。手柄を奪って貰っては困る」
「手柄…?」
「あぁ、大手柄だ」
「生き物の命を奪って…それを手柄と呼ぶんですか…?」
「シェリル、リエネさんは──」
割って入ろうとしたリリニシアを、リエネは手で制した。
「そうだ」
「昔の戦争でも…ハリソノイアは、ヤクノサニユ人を殺してそう言ってたんですか!?」
「…そうだろうな」
「っ!貴方たちは──!」
「待った姉ちゃん!」
リエネに飛びかかりそうな勢いのシェリルの前に、スウォルが立ちはだかった。
「落ち着けって、起きたばっかなんだから無理すんなよ」
「邪魔しないで!」
「気持ちは分かる。けどユミーナ大王は、そんなハリソノイアを変えようとしてるんだぞ?わざわざ敵対するような真似はすんな」
「でも!」
憤りを隠さないシェリルに、スウォルは努めて冷静に諭す。
「俺たちの目的はなんだ?なんの為に旅してる?」
「それは…」
「忘れちまったか?“和睦の使者”だ。ケンカ吹っ掛けに来たんじゃない」
「…」
「リエネさん、悪ぃんだけどしばらく外してくれねぇか。戻るまでに姉ちゃん落ち着かせとくからさ」
言い負かされ、それでも納得出来ずリエネを睨み付けるシェリルを抑えながら、スウォルは言った。
「…分かった」
「では、僕もリエネさんにご一緒しましょう」
「レピさんもですの?」
リエネに続き、レピが立ち上がると、リリニシアは驚いた声をあげる。
「古くからの付き合いのお三方で、つもる話もあるでしょうから。それに──」
レピはリリニシアの耳元に口を寄せ、小声で何かを囁いた。
「彼女も自分を責めてしまいそうですから」
「…分かりましたわ」
「よろしいですか?リエネさん」
「好きにしろ。ではまた後でな」
「一度失礼します」
レピが姿勢を戻し問うと、リエネは頷き、二人で部屋を退出した。
「ありがとうございます」
宿屋を出て、レピはリエネに礼を言う。
「なにがだ」
「お気遣いです。“シェリルさんが殺した訳ではない”と言いたかったのでしょう?」
「…裏目に出てしまったようだが」
「きっとスウォルくんもリリニシア様も分かっています。シェリルさんも、時間を置けば理解してくれるでしょう」
「ふん…」
「それにしても…
「…同感だ」
そして時間は過ぎ、夜。
二人が宿に戻るとシェリルは、少なくとも表面上は落ち着いたように見えて、リエネに頭を下げた。
夕食後、仲間たちが寝静まった後、眠れずにいたシェリルに、リエネは声を掛ける。
「少し散歩でもしないか。二人で話しながら」
~次回予告~
リエネの誘いを受け、困惑しながらも二人で深夜の散歩に出たシェリル。
いぶかしむシェリルに、リエネは詫びの言葉と、シェリルに対し抱いている“感覚”を口にする。
一方シェリルも、リエネの気遣い自体は認識していたことを伝え、それでも激昂させた“価値観”について質問を返す。
次回「シェリルとリエネ」
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