第11話 勇者一行とハリソノイアの大王様

~前回のあらすじ~

迎えに来たという女性、リエネの来訪を受け、シェリルは仲間を叩き起こし、状況を説明する。

リリニシアが代表したリエネとの問答の末、一行は彼女の案内に任せることを決めるのだった。




 リエネの案内の元、中央部へと向かう途中、一行は、彼女が余計な会話を嫌うことを理解していた。

 聞けば答えるが、聞かなければ何も言わない。

 その答えも最小限で、会話を膨らませようという意思は微塵も現れなかった。

 表情の変化にも乏しく、あくまで命令に従い、と割り切っているだけで、内心歓迎していないことは、一行にも伝わった。


 “可能な限り早期の到着を”という方針の元、リエネの知る近道を多用し多くの村や町、夜営を経て中央部に到着したのは、リエネが尋ねてきてから20日後のことだった。


 野党が襲ってきてはリエネたちを見て撤退することが何度かあったが、中央部に近づくにつれ減っていった。

 魔界との境の守りもやはり固いようで、突破してきた魔物と遭遇することもなかった。


 道中もハリソノイアの民からは怪訝な目を向けられた一行だったが、さすがにリエネたちの同行のおかげで表立って敵意を向けられることはなかった。


 その怪訝な目が自分たちだけでなく、リエネに対しても向けられていることにシェリルが気づいたのは、一つ目の町に辿り着いた時だった。


 言いづらそうに訪ねたシェリルに対し、リエネはこともなげに答えた。

 曰く、「ユミーナ大王の方針転換に納得が行かぬ者は一部ではなく、むしろ大多数。彼らにとって、大王に従う私の存在は、面白くないのでしょう」。

 改めて、王の言っていた“政治的な混乱”の意味を理解した。


 だがシェリルにとってはそれよりも、表情の変わらないリエネが、大王のことを語る時だけ、極わずかではあるが、たびたび苦い表情を浮かべることが気になった。

 “苦い表情”の理由を無神経に尋ねられるほどの図太さは持っておらず、疑問は誰にも明かされることはなかった。


「こちらで少々お待ちください。大王に皆様のご来訪を伝えて参ります」


 中央部と言うだけあり、これまで経由してきた町とは比較にならないほどに大きく、活気づいている街の更に中心、王城に辿り着くと、リエネは一行を待たせ一人、華やかに飾り立てられた、大きな扉の向こうへ消えていった。


「すっ…げぇな…」


 スウォルが圧倒されながら呟く。


「そ、そうですわね…。ヤクノサニユこちらよりも随分と大きいですわ…」


 口では素直に同意したリリニシアだったが、少し悔しそうに歯噛みしていた。


「ヤクノサニユ城も立派だと聞きますが、ハリソノイアは国土も五国中最大、その分人口も多いですからね。権力を誇示する為でしょうか」

「理由がなんであれ負けは負けですわ!」


 レピが伝聞の情報で、申し訳程度にフォローしつつ自身の解釈を述べるが、リリニシアのご機嫌を回復させるには至らない。

 そんなリリニシアを気にすることなく、シェリルは一人、沈黙していた。


「姉ちゃん?どうした?」

「あ、うん。リエネさん、あんな感じなのに、ユミーナ大王の話の時だけ、少し…嫌そうな顔するのが気になってて」

「え、そうだったか?」

「やっぱり。…まぁ本当に少しだけだから、気付かなくても無理ないと思うけど」


 そう言いつつ、シェリルは呆れたようにため息をついてみせた。


「はいはい気付かなくて悪かったな!」

「…それもあって、ユミーナ大王ってどんな方なのかな、って」

「関所のおっちゃんはバケモンっつってたしな。襲われたら殴り倒すとか言ってたし、ムッキムキだったりすんのかな」

「本当にお願いだから、目の前で余計なこと言わないでね…?いや目の前じゃなくても止めて?」


 雑談しながら少し待っていると、リエネは消えていった扉から再び姿を現し、一行に告げた。


「お待たせいたしました。ハリソノイア大王、ユミーナ・クオシャー様が皆様とお会いになります。どうぞ、私にお続きください」


 やや緩んでいた一行の神経が、急激に引き締まる。

 背筋を伸ばしリエネを追って、扉を通り抜けた。


 廊下を通り辿り着いた、少し先の部屋──玉座の間で、一人の女性が鎮座していた。


「お客様をお連れしました」


 リエネが告げ、一行は廊下で指示された通り横一列に、緊張の面持ちで並んだ。

 女性は一行の姿を認めると、立上がり声をあげた。


「これはこれは、ようこそハリソノイアに!歓迎いたします!」


 シェリルやスウォルよりやや小柄な、大王という割には飾り気のない服装に、黄金こがねに輝く首飾りが目立つこと以外、いかにも“普通の女性”の姿が、そこにあった。

 前評判からの想像との落差に呆気に取られ、言葉を失う一行に、女性は頭を下げ、お辞儀しながら言葉を続けた。


「現在、ハリソノイアで大王を務めております、ユミーナ・クオシャーと申します。以後お見知りおきを」

「大王様!?恐れながら、大王ともあろうかたが軽々しく頭を下げては──」

「喋っていいと言いましたか?」


 驚いたリエネが制するため声をかけようと一歩踏み出しかけると、一行に対するものと同一人物が発したとは思えない、冷徹な声でユミーナが遮った。


「私はヤクノサニユからのお客様と話をしているのです。貴方ではありません」

「…」

「それ以前に、貴方は私に意見できる立場ですか?大王わたしが頭を下げるのが気にいらないなら、私を討って貴方の思うようにすればよいでしょう」

「…出過ぎた真似をし、申し訳ありません」


 リエネは頭を垂れ、踏み込みかけた足を引き戻した。

 俯く彼女の表情は伺えない。

 ユミーナはふん、と鼻で一息吐くと、改めて声色を戻し、一行に問う。


「初めてのお客様の前で恥をかかせないでください。…お見苦しいところをお見せし、失礼いたしました。皆様のことはリエネから伺いましたが、ご本人の口からお名前をお聞かせいただけますでしょうか?」


 四人の内心は“怖えー!!”で完全に一致していたが、それを表に出さないよう、心を無にして名乗った。


「リリニシア・ルベス・ヤクノサニユと申します」

「貴方が国王陛下のお孫様という!ヤクノサニユの方でありながら、魔術を扱うとお聞きしておりますが!?」

「極めて簡単な物を二つのみですが」


 普段の騒がしさはどこへやら、冷静に淡々と答える。

 王族としての矜持ゆえか、単に恐怖からか。


「それでも素晴らしいです!後程お見せいただけたり出来ますか!?」

「燃えてしまう物がない、開けた場所でなら」

「ありがとうございます!楽しみです!お隣の方は?」


 リリニシアの回答に満面の笑みを見せたユミーナは、矛先を変えた。


「はい!シェリル・ドラベレアルと申します!」


 跳ね上がりそうな勢いで、改めて姿勢を正す。


「シェリル様ですね!伝承に謳われる勇者の剣をお継ぎになったとか…あ、背中のですね!?」

「はい!」

「今抜いてお見せいただけませんか!?」

「今ですか!?」

「ダメですか?」

「いえすぐに!」


 言葉よりも早く手が動き、言い終えた時には既にその手に剣が握られていた。


「どうぞご覧ください!」

「へぇぇ…。見た目では普通の剣に見えますが…?」

「今のところ使ってても普通です!」


 “姉ちゃん、魔物に対しては一回も使ってねぇじゃねぇか”とは、いくらスウォルでもこの場では言えなかった。


「そうなんですか…。少し拍子抜けですね」

「仰る通りです!」

「それでお隣が…勇者の盾を継いだという」


 やはりお国柄、剣が気になっていたのか、ガッカリと肩を落とし、目線を移した。

 やはりスウォルも、ピンと張りつめた糸のようにまっすぐと立つ。


「スウォル・ドラベレアルです!よろしくお願いします!」

「双子のご姉弟と聞きましたが…確かによく似てらっしゃいますね!」

「双子ですので!」

「そちらの盾も普通な感じなんですか?」


 剣と違い、抜くまでもなく左腕に備え付けられている盾を、やはり興味深そうに眺める。


「え…と、見た目より軽いですが、不思議と頼りない感じはしません!」

「へぇ!それだとちょっと特殊な感じしますね!」

「はい!」

「その他にはなにかありませんか?」

「他に!?えー…あ!魔物が近くにいると光って震えるっぽいです!」


 少しは期待に添えたかと一息ついたところを追撃され、スウォルがなんとか捻り出した。


「っぽい?」

「まだ二回しか起こってないので断言が出来ません!」

「すみませんこっちもそれあります忘れてました!」


 意図して偽ったと誤解されたらたまったものじゃない。

 慌ててシェリルも手を挙げ、詫びと共に普通じゃない特徴を伝えた。


「なぁんだ!ところもあるんじゃないですか!」

「ありました!申し訳ありません!」

「そんなに謝るようなことではありませんよ。では、最後の方がマキューロ人の?」

「えぇ。レピ・エルトナと申します」


 年長の分、三人よりは落ち着いて答えたレピだったが、その背中には冷や汗が伝っていた。


「なぜマキューロ人のレピ様が、ヤクノサニユのお三方と?」

「私は個人的な目的から一人で旅をしていたのですが、危ないところを皆様に助けていただき、それからご一緒させていただいております」

「そうだったんですか。その個人的な目的…というのはお聞きしても?」

「勿論、構いません」


 それどころか、レピにとっては好都合ですらある。


「“禁じられた魔法”を探し求めております」

「禁じられた…魔法?魔術ではなく?」

「はい。かつての権力者がなんらかの理由で禁じたという、魔法です。それを探しております。何かご存知ありませんでしょうか?」

「うーん…」


 逆に質問するレピの胆力に、三人は肝を冷やしながらも口を挟む訳にもいかず、怒りに触れないことを祈った。


「私ではお力になれそうにありません。何しろ私、大王になったの、ついこの間なので」

「そうですか…。いえ、助かりました」

「とんでもありません。お役に立てず申し訳ありません」


 済まなそうにションボリと肩を丸めたユミーナだったが、すぐに立ち直り、改めて四人に告げた。


「さて、お互い自己紹介も終わりましたし、そろそろ本題に入りましょうか!」




~次回予告~

本題に入ると告げるユミーナに、震えながらも和睦の意思を伝えるリリニシア。

難航を予想していたものの、ユミーナ“自身”はあっさりと頷いてみせた。

しかしあくまで“自身の意思”であり、“国として”の答えではないという。

戸惑う一行に、ユミーナはある依頼を突き付ける。


次回「勇者一行と大王様の依頼」

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