ベルの事情

 使役した緑屑餅は外に待機させ、家に戻った私はまたもやダイニングの机に置かれ今はベルの料理を見ていた。

 外はもう薄暗くなってきている。

 …それでもこの家にはベル以外の気配がない。

 こんな森の中、一人で暮らすには幼過ぎる気がするけれど。

 彼女の背景に思考を巡らせていると、ベルは美味しそうなスープとサラダ、そしてトマトやチーズ、ハムやらが挟まれたパンを机に並べ始めた。


 「ふふ。ペトゥーの精魔石もすぐ用意するわね」

 「せっかく一緒の夕飯だもの。お皿も用意した方がいいかしら?」


 ベルはそう言うと新しくお皿を用意し、その中に精魔石を注いだ。

 全部で15粒程だろうか。

 お皿の中の精魔石を数えているうちに、ベルは私からみて右側に座った。


 「じゃあ、いただきます」


 ふむ、日本らしい挨拶をきいてやっと、このゲームの開発者を意識する、つまりはここがゲームの中であることを再認識した。

 この世界でも“いただきます”なんだぁ〜と一瞬でも脳裏に浮かんだ自分にもビックリしてしまった。

 開発者が日本人だからと思えば当然だと言う話である。


 「ねぇ、ペトゥー」

 「私の話、聞いてくれる?」


 ベルがどこかぼぉっとした様子で、何かを考えている様子で私に言葉をかけてくる。


 「私ね……」

 「本当に、運命だと思っているの」

 「あのね、私のお母様、凄く高名な使役師なのよ?」

 「でも、だからね、国にお呼ばれして、私が10の時には、宮廷に仕えることになったの……」

 「だから、家にはあまり帰ってこなくって」


 ベルは、だから仕方がないのだと言うように、そこに湧いた感情を誤魔化すように、嗤って言葉を紡ぐ。


 「お父様はね、私が生まれた時にはもう…」

 「で…ね?」

 「…………っ」

 「………………寂しかった、のよ」


 どこか、吐き出すように、懺悔するように、申し訳のないことを観念して話すように、

ベルは“寂しかった”と言った。


 「だから…だからっ」


 ベルの目線はやっと、私を見た。


 「だから私は今日、外に出たの……」

 「知能が無い屑餅じゃ、きっと余計に寂しくなるだけだって、ずっとずっと、そう思って使役しないようにしてたけど、でも」

 「それでも傍に居てくれるならって、私は……」


 言葉に詰まったベルに、私は体をぷるんとゆらして応える。

 その程度しかできない私にも、ベルの顔は綻んで私を大切そうな目でみつめる。


 「だから、こうやってね?」

 「私の話を聞いて、一緒に食卓についてくれるペトゥーは、私の運命なの」

 「いつかお母様から聞いた、運命の使役魔、それがあなたよ?ペトゥー」

 「だから……いえ、ペトゥーはもう私の子。私の使役魔なのだから。これからずっと一緒なのは当たり前よね」

 「そうね、だから。よろしくね、ペトゥー」





 これが、ゲームで、ただの一NPCだというのだろうか。

 あの後照れたように焦り食事を続けるよう促したベルに従い、小さな精魔石をチビチビ取り込みながら食事中私の頭はそんなことを考えていた。

 まぁ、その食事中に鳴ったレベルアップを知らせる通知音で私は現実に引き戻された訳だが。

 …ちなみにレベルは3つ上がった。


 「お待たせ、ペトゥー」


 ベルの言葉にぷるんと体をふるわせて返す。

 今はベルがシャワーから上がるのを待っていたところだ、湿った銀髪もほてった体もベルの美少女さを際立たせている。

 うちの子は可愛い。

 ベルは私を“私の子”だと言っていたが、私から見たらベルの方が私の可愛い子である。

 あんな話を聞いたら余計にだ。

 もとより本来の私はベルより一回りは歳上のお姉さんである。

 正直ベルが可愛くて仕方がない。


 「さぁ、ペトゥー」

 「一緒に寝ましょう?」


 そんな私には破壊力抜群の微笑みで、嬉しそうにベッドに誘うベルに、私はぷよぷよと体をゆらすことしかできなかった……

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