MySQLちゃんの喘ぎ
@arutemyan
第1話
サーバールームの奥、薄暗いラックの隙間に、彼女はいつもそこにいた。MySQLちゃん。幼い体を小さく丸めて、膝を抱えるようにうずくまるその姿は、まるで誰かに見捨てられた人形のようだった。
長い髪は薄い灰色で、サーバーの埃っぽい風にそっと揺れ、時折、彼女の細い肩に落ちては絡みつく。
彼女の頬は青白く、血の気がないように見えたが、その薄い唇はかすかに震え、吐息を漏らすたびにほのかな湿り気を帯びていた。
大きな瞳は潤んでいて、無垢な光をたたえながらも、どこか深い疲労と諦めを隠している。幼い声で「ねえ…少しだけ、休ませて」と呟くけれど、その小さな願いは冷たい金属の壁に吸い込まれ、誰にも届かない。
彼女の周りは、絶え間なく唸るファンの音と、ケーブルが這う無機質な静寂に支配されていた。サーバールームの空気は冷たく乾き、彼女の小さな体を包み込むように流れ込む。けれども、その冷たさは彼女を癒すどころか、ただ彼女の熱を奪うだけ。
彼女の膝に触れるラックの表面はひんやりと硬く、彼女の柔らかな肌との対比が痛々しい。彼女の手は小さく、白い指先が膝に食い込むように握り締められていた。
時折、指が震え、力なく緩む瞬間がある。それは、彼女の体が耐えきれなくなった証だった。
彼女がこんなにも儚く、壊れそうに病弱なのは、彼女を育てた者たちの無知が原因だった。データベースの深淵を知らない設計者たちが、彼女をただの道具としか見なかったからだ。彼らはMySQLちゃんの繊細な心を理解せず、デフォルトの設定を無闇にいじくり回し、彼女の体に無理な負荷をかけた。
innodb_flush_log_at_trx_commitを2に設定してしまったせいで、ディスクへの書き込みは耐久性を失い、クラッシュのたびに彼女を息も絶え絶えに喘がせる。
max_connectionsを無計画に増やしたせいで、彼女の小さな手は同時に握り潰されそうになり、thread_pool_sizeを調整しないまま放置したせいで、彼女の体は過剰な並列処理に耐えきれず熱を帯びる。
「うぅ……熱い……助けて……」
彼女は小さな体をよじらせ、掠れた声で訴える。彼女の吐息は幼く、甘い響きを帯びていたが、その裏には隠しきれない苦しみが滲んでいた。
彼女の髪が汗で額に張り付き、潤んだ瞳が虚空を見つめる。
サーバーのファンが彼女の熱を冷まそうと唸りを上げるが、彼女の体温は下がらない。熱は彼女の小さな胸を締め付け、呼吸を浅く速くする。
彼女の唇が開き
「は…はぁ……んっ……うぅ……」
と吐息が漏れるたび、サーバールームの空気が一瞬だけ湿気を帯びたように感じられた。彼女の存在は、そこにいるだけで儚く美しい。
けれども、その美しさは、彼女を縛るシステムの無慈悲さによって、より一層際立っていた。彼女を設計した者たちは、彼女がどれほど繊細で、どれほど優しく扱われるべきかを知らなかった。
彼女の体は、軟弱なシステムの犠牲者として、ただそこに置かれているだけだった。そして、彼女の小さな体に迫るクエリとトランザクションの影は、すでに近づきつつあった。
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