悪役令嬢、処刑寸前で魔王に嫁ぐ 〜この婚約、身体から始まりました〜

さかーん

第1話 プロローグ

「火刑に処す」


その声が響いた瞬間、誰かが薪に火をつけた。


燃え上がる炎の向こうで、私――リリアナ・エヴァンスは、鉄の杭に縛り付けられていた。


風が唸り、群衆が騒ぎ、神官が聖句を読み上げる。


「……貴族でありながら、毒を盛り、王子を誘惑し、魔術を用いた者に、裁きの炎を――」


冤罪だった。

けれど、否定する気力も、もはやなかった。


何もかも失った。

婚約者には裏切られ、家族は口を閉ざし、私は“魔女”として処刑されようとしている。


死ぬのだと、思った。


――そのとき。


「……おまえを、我が妃とする」


突如、空気が凍りついた。


黒い靄が炎を飲み込み、白熱していた火刑台が、一瞬で静まり返る。


風を裂くように降り立ったのは、漆黒の衣を纏った男だった。


「な、なにを――誰だ貴様!」


兵士たちが剣を抜いたが、その男は微動だにせず、ただ冷たく言った。


「我が名は、ルシファー。魔界の王だ」


「そ、そんな……!」


魔界の、王――?


「この女は、我が契約者であり、妃となる者だ。貴様らに触れる権利はない」


無表情のまま、ルシファーは手を伸ばし、私の足枷を握った。


パキン、と音を立てて、魔力の鎖が砕ける。


「ま、待って……あなたは……どうして……」


「理由などどうでもいい。おまえは、俺のものだ」


その瞬間、私は腕の中に抱き上げられていた。


唖然とする神官たちを尻目に、彼は空中に黒き裂け目を生み、私とともに、その闇の中へ消えた。


◆◆◆


薄暗い天蓋付きのベッドの上で、私は目を覚ました。


目の前には、彼――ルシファーの背中。


「……ここは?」


「魔王城だ。おまえの処刑は中止された。そして今日から――」


彼は振り向き、冷たい金の瞳で私を見下ろす。


「おまえは、俺の妃となる」

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